2022年2月26日に故アヴィーチー(本名:ティム・バーグリング)のミュージアム「アヴィーチー・エクスペリエンス(Avicii Experience)」が、彼の故郷であるストックホルムのオスタマルムのSpace Stockholmにオープンしました。
海外書き人クラブ会員で、ストックホルム在住ライターの吉村有理江がレポートします。
アヴィーチーの音楽は今も日本のファンならず世界中のファンに愛されています。「アヴィーチー・エクスペリエンス」では、内向的であった幼少期から世界的な音楽ヒットの数々を打ち出したスーパースターの時代に至るまでの彼の歴史を辿ることができます。
今回は同ミュージアムのコンテンツプロデューサーを務めたLisa Halling-Aadland(リサ・ハーリング-オードランド)氏に行ったインタビューも含めて伝えします。また掲載する画像に関しては、ミュージアムから撮影および掲載の許可を受けています。
「Avicii Experience」について
アヴィーチー(Avicii)はストックホルム出身のDJ、ミュージシャン、プロデューサーでありソングライターで、グラミー賞を2回受賞したアーティストでした。「アヴィーチー・エクスペリエンス(Avicii Experience)」は、現代のポピュラーカルチャーアイコンの一人である、ティム・バーグリング(Tim Bergling)ことアヴィーチーを、ファンや一般の人々が時代を代表する音楽クリエイターとしての彼の記憶を称える場所として、Space Stockholmにオープン。
同ミュージアムでは、インタラクティブな展示としてアーティストとしてのアヴィーチーの人生と、ティム・バーグリングという人物に両方にフォーカスしたものとなっています。
写真は彼の幼少期の部屋の展示から。天才的なミュージシャンの始まりは、ごく普通の男の子の部屋から始まりました。
「音楽制作を始める前のティムはゲームが好きで、World of Warcraftが大好きでした」とクリエイティブディレクター兼キュレーターのIngmarie Halling(イングマリン・ハーリング)氏は語ります。
ギターや、コンピューターにセルフポートレート。90年代に幼少期を過ごした人はこの部屋を見るとなんだかしっくり来るはず!
“体験型”展示として、興味深かったもののひとつがヴァーチャル・リアリティ・カラオケルーム。アヴィーチーのヒット曲が書かれた個室に入り、ヘッドセットを装着してまるでスタジオにいる環境の中でカラオケを楽しむことができるのです。
また、彼は音楽的な成功の一方で、度重なるツアーや、パパラッチなどで極度の精神的なストレスに苦しめられていました。チケットの売り上げの一部は、ティムの父親Klas Bergling(クラス・バーグリング)氏が立ち上げた、メンタルヘルス問題の解決と自殺防止を啓蒙することに焦点をあてた活動を行なう財団 <Tim Bergling Foundation>に寄付されます。
さて、ここからはコンテンツプロデューサーを務めたLisa Halling-Aadland氏に本ミュージアムについてのインタビュー内容をお届けします。
ミュージアムのキュレーションで、特に苦労した点は何ですか?
彼の人生には悲しみも愛も光もたくさんあるので、展示内でそのバランスを見つけることに苦労しました。そして、アヴィーチーがいかに音楽の制作過程を愛していたかを来場者に見せるバランスを見出すのにも苦労しました。
生前、いくつもの栄光を手にしたアヴィーチーですが、彼の才能について、世間から見落とされていた部分は何だと思いますか?
いい質問ですね。アヴィーチーを知っている多くの人、特にスーパーファン以外の人は、彼はDJと音楽プロデューサーだけだと思っていると思うのですが、彼は歌詞やメロディーを書くのも素晴らしく、ソングライターでもありました。そして、アーティストとしても本当に才能のある人でした。だから、彼がどれだけのことができるか、どれだけのクリエイティブな幅を持っているかが見落とされていたのだと思います。
ミュージアムを通じて来場者に伝えたい一番の点は何ですか?
チーム全員を代表して言えば、ティムが与えてくれた喜びと素晴らしい音楽に感謝し、音楽愛好家やコラボレーターとともに彼の旅に光を与え、そして悲劇的なことに、ダークな側面も持ち合わせて終わりを迎えることを伝えることできればと思っています。
ストックホルムで彼にとって大切な場所があるとするならばどこだと思いますか?
例を挙げるならば、オスタルマルムでしょう。そこは彼が育ち、学校に通い、初めてたくさんの時間を過ごした場所です。
アヴィーチーは日本にも大勢のファンがいます。現在スウェーデンに来るのが難しいファンに向けて、何かメッセージはありますか?
私たちがキュレーションをしているとき、日本のファンからたくさんの美しいファンアートやデザインが寄せられているのを見ました。将来的にはできるだけ多くの人に展示に足を運んでもらいたいと思っています。長い道のりですが、ぜひ来てほしいですね。
スウェーデンの音楽が世界的に成功を収めているのには理由があると思いますか?
スウェーデンのポップミュージックは一般的に非常に成功していてパワーがあります。おそらくメロディーの書き方もあり、皆さんはそれが何であるかを理解していると思いますが、楽しくてキャッチーなメロディーを作成することはスウェーデン人が本当に得意としているものです。
音楽シーンは今、どこへ向かっていると思いますか?
人々は、多くのジャンルをクロスオーバーする勇気を持つようになりました。以前はたくさんの明確なカテゴリーがありましたが、今は人々がどんどんジャンルを横断しているように思います。
彼の素晴らしい音楽をより深く知るためのインタラクティブなミュージアム。ストックホルムに来る際はファンならずとも是非訪れてみてほしいです!
(文・写真 吉村有理江)