こんにちは。海外書き人クラブ会員、ブラジル在住5年の現役サンバダンサー、マンゲイラ靖子と申します。
前篇ではサンバが競技である事やポジションの獲得、衣装工房でのハプニング等について書かせていただきました。さて、いよいよ待ちに待ったパレード当日、パレ―ドの裏側では何が起こっているのでしょうか?
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4 山車の上にはクレーンで吊り上げられ、2時間以上待つことも
衣装の問題が解決し、いよいよカーニバル当日がやってまいりました。近くのホテルに滞在し最後の衣装調整をしながら出番を待ちます。いつも私は衣装の内側の携帯電話と小銭を入れても表から見えない場所に、小さなポケットを手縫いします。待ち時間に写真を撮ったり、水を買ったりするのでこれがあるととても便利です。
待ち合わせ場所・時間の連絡がボスのホーズィから来ました。「21時にスタート地点の山車が集まっている所で」という内容ですが、なんと今年のカーニバル初日は大雨! それから待ち合わせ時間が30分、1時間と遅れに遅れて不安が煽ります。
23時から1チーム目のパレードが始まるのですが、奇跡的に直前の22時頃に雨は止みました。とはいえ会場は水浸しで山車も濡れて台上もつるつる滑りとても危険です。会場スタッフがすぐにモップで水を拭き取り始めます。
そんな中を私は会場の近くに用意したホテルで着替えとメイクを済ませて待ち合わせ場所に向かいます。ダンサーをやっていて思うのですが、大抵の場合メイクは自分で済ませますので道具は持参です。たまに、チームでプロのメイクさんを雇う場合もありますが、その際は追加料金の支払いがあることも(縫い付けたポケットのお金がいざという時に役に立ちます)。
何れにせよ、こういったチーム情報を常に受け取れるよう携帯を持ち「WhatsApp 」と「Facebook」をチェックすることが今時のダンサーです。現地での活動を目標としている人は、現地の携帯電話を契約することも重要かと思います。ポケットWifi等も便利ですが、ブラジルの通信環境は雨や落雷で不安定になりやすいのであまり信頼できません。
最寄り駅から会場までは徒歩40分。タクシーで行きたいところですが、当日は観覧する人たちもタクシーを使用するので拾える事はまずありません。ですから、より会場に近いホテルに泊まり、そこから歩いて行くのがベストでしょう。通行人に冷やかされる事も無く「どこのチームで踊るの?」とか「わーっ!衣装素敵!」と温かい声をかけてくれる人が多く、会場近づくと同じように衣装を着てスタート地点へ向かう人たちが大勢いるので安心です。
待ち合わせ場所に着き自分の乗る山車の前へ行くと、仲間が何人か既に居てこちらに気付くと手を振っています。それから、お世話係の年配のメンバーが羽を背負わせてくれ、山車に乗る前の手伝いをしてくれます。
山車には梯子も階段も付いてなく、自分の定位置まではクレーンで吊り上げられスタンバイします。山車は手作りで、足場以外は発泡スチロールなどの柔らかい素材で出来ていますので、踏むところを間違えると壊れたり転落したりする恐れもあるのでスタッフが慎重に支えてくれます。
山車に乗って待つこと2時間、隣のダンサーのマリアーニと世間話をしつつ、振り付けの確認をしながら時間潰しをしていると車のエンジンが掛かり始め、ホーズィが「いよいよ本番スタートよ!」と声を荒げるのでウォームアップを始めました。
5 本番はとにかく歌って踊るだけ、観客と目が合うほど嬉しい
深夜0時40分、私たちのチームは定刻より少し遅れてのスタートとなりました。皆、今年のテーマ曲をしっかり歌いながら踊っています。衣装はどのパートにも大きな羽が付いているため、隊列での間隔の取り方が今までの練習とは微妙に異なります。そこを調整係が大声で指示しながら綺麗な隊列へと整えていきます。そして、その隊列と隊列の間に山車が入ります。観客の声援とともに私たちの乗った山車がついに動き始めます。私たちのチームの旗を持って応援してくれる人がいると、嬉しさも倍増で調子は上がってきます。
山車の上とスタンドの二階席の観客とは目線の高さが同じなので、目が合うこともしばしば。それから友人等が何処の席に居るかわかっていれば踊りながら探すこともできます。
当日、山車で踊りながら気がついたのですが、なんと私のすぐ後ろには電動仕掛けで動く黄金の巨大フェニックスの像が設置されていました。そのフェニックスの羽根が動くたびに私の背中へぶつかり、その反動で危うく落ちそうになる事も。その為かなり力強く踏ん張りながら、落ちないようにとひたすら堪えていました。そんな中、ブーツの中で足がヌルッと滑るようになってきました。つま先立ちしている足の豆がつぶれて出血していたのですが、興奮で痛さも忘れ最後まで踊っていました。ゴールしてからふと気付くと右肩の痛みが激しくなりました。翌日になって整体師に見てもらって分かったのですが右肩は脱臼していました。10kg近くある羽を背負いさらに障害物にぶつかりながら耐えた勲章とも言えるでしょうか。隣のマリアーニも同じような事を言っていたので心配でしたが、後日連絡を取って彼女の無事が分かりホッと胸をなで下ろしました。
最高峰のエスペシャルグループ(トップリーグ)のパレードは2日づつあり、サンパウロ市では2月24~25日と開催され、その後はリオ・デ・ジャネイロ市では26日~27日と続き、次の28日が審査結果の発表でした。私のチームは6位で12チームの丁度真ん中でした。
1位~3位までがその週の土曜日に召集され、再度「チャンピオンパレード」と言う名で披露されます。そして残念ながら下位2チームは1つ下の2部リーグの上位2チームと入替えとなり、それぞれ新しいリーグで2018年のパレードを競い合います。今年はリオ・デ・ジャネイロで山車が制御不能となり報道陣の席に突っ込み計20人が負傷する事故や、2階建ての山車が崩落してしまい乗っていたダンサー12人が巻き添えとなる悲惨な事故がありました。やはり、ジスタキと言うポジションは常に危険と隣り合わせと言う事を改めて思い知らされました。運よく今年は大きな怪我をすることも無くカーニバルを無事に終えられた事に感謝します。また、快く仲間に入れてくれたチームとダンサー達に、山車を作りクレーンで吊り上げてくれたスタッフ達に、そして応援してくれた友人達や支えてくれた家族に有難うと感謝の言葉を心から伝えたいです。今回、私はダンサーの視点でこの記事を書きましたが、サンバには先に紹介したように色々なポジションがあるので、また違った視点でのそれぞれのカーニバルの裏側を、いつか見ることが出来たら面白いと思っています。
(前篇はこちら)
【文:海外書き人クラブ マンゲイラ靖子】
(「海外在住ライターを使ってみたい」と思われている方。「海外在住ライターになりたいと思われている方。耳寄りな情報があります。ぜひこのページの下のほうまでご覧ください)
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