サッカー日本代表チームが招待国として参加した2019年の「コパ・アメリカ」(南米選手権)。2分1敗でグループステージ敗退という残念な結果に終わってしまいましたが、その中でも輝きを放っていた1人が18歳の久保建英選手です。
今回はその久保建英選手と二重国籍問題について、非常に気になったことがあったので記してみたいと思います。
こんにちは。海外書き人クラブお世話係の柳沢有紀夫です。
「えっ? なんで両親とも日本人で、日本で生まれた久保選手に二重国籍の問題が発生するの?」と思われるかもしれません。確かに、以前この「世界のコトなら」で取り上げたテニスの大坂なおみ選手のようないわゆる「ハーフ」ではありません。でも二重国籍の問題は、じつはハーフだけが関係する話ではないのです。そして……。
久保建英選手、そして将来のサッカー日本代表もおおいに関係するかもしれない問題なのです!
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まずは久保建英選手に関するおさらい
久保建英選手は10歳から13歳までの約3年半、スペインの名門バルセロナの下部組織に所属。しかしバルセロナが18歳未満の外国人選手獲得・登録に関して違反したため、「練習参加や練習試合に出場はできても、公式戦には出場できない」という状況に陥ります。
練習も大切ですが、試合で得ることは多いものです。練習試合も重要ですが、勝ち負けにとことんこだわる公式戦のほうがずっと学ぶ点は多いものです。
このような状況から久保選手は日本に帰国して、2015年3月、14歳のときにまずはFC東京の下部組織に入ります。
そして日本でJリーグの試合に出て研鑽を積み、2019-20年のシーズンはバルセロナのライバルチームであるレアルマドリードのBチーム(カスティージャ)でプレーすることが決まっています。
スペインリーグの「外国人枠」に関して
さて、問題はここからです。
サッカーの各国のリーグには「外国人枠」というのがあります。この「外国人枠」はなぜあるのかというと、外国人選手が来ることでレベルがアップすることもあるし、また国内リーグにいながらにして外国人とマッチアップするチャンスも得られるけれども、その反面あまり外国人ばかりが多くなって自国選手が試合に出られず育たないのは困るからです。ということで各国は状況を見ながら、登録および試合出場が可能な外国人数を決めているのです(ドイツやオランダのように外国人枠を設けない代わりに、「自国人と何人契約しなければいけない」というルールがある国もあります)。
J1リーグの場合は登録も出場も1チーム5名までとなっています。
そしてスペインリーグの場合、登録も出場もヨーロッパの主要リーグの中でももっとも少ない3名となっています。ただしEU加盟国などの国籍を持つ選手は「外国人」とはカウントされません。さらにスペインではラテン系やスペイン語圏出身者には二重国籍を認めています。スペインで南米選手が多数活躍しているのはそのためです。
レアルマドリードの外国人枠の現状
では久保建英選手が所属するレアルマドリードのトップチーム(1部リーグで戦うチーム)のほうの外国人枠は現在どうなっているでしょうか。現在は下記の2名で3枠中2枠は埋まっているようです(原稿執筆の2019年6月27日現在)。
- 中盤の守備の要であるカゼミーロ選手(ブラジル国籍)
- 2000年生まれと若いながら2018-19年のシーズンはそれなりに出場機会を得た期待の新星、フォワードのヴィニシアス・ジュニオール選手(ブラジル国籍)
この夏の移籍マーケットでどうなるかわかりませんが、もしも上記の2人がこのまま在籍して、別の外国人枠選手が入ってきた場合、それで3枠埋まってしまうことになります。
そうなると、来年トップチームに昇格しようとしても久保選手には「枠」がないことになります。
久保建英選手には「スペイン国籍」取得の可能性がある
ただし久保選手には「抜け道」……というと言い方が悪いので変えましょう。「別ルート」のようなものがあります。
それは「5年居住でスペインの市民権(国籍)が得られる」というルールです。この5年が「連続して」でなければいけないのか、そうでなくてもいいのかはちょっと調べきれなかったのですが、もしも後者だとしたら久保選手の場合、あと1年半ほどの居住でスペイン国籍を得られるかもしれないとことになります。
また優秀なスポーツ選手に、一般の人たちよりも優先的に市民権が与えるのは、世界各国でよく行われていることです。
さて、そうなると日本は二重国籍を今のところ認めていませんし、自分の意思による他国籍取得なので日本国籍は即時剥奪されます。
これは単純に国籍選択の問題だけではありません。
「スペイン国籍を選んで、世界最高のメガクラブの一つであるレアルマドリードでプレーする」か、「日本国籍を選んで、外国人枠の関係で世界最高のメガクラブの一つであるレアルマドリードでプレーするチャンスを逃すか」の、人生の大きな選択になる可能性もあります。
あなたなら、どちらを選ぶでしょうか。
私だったら「代表チームでワールドカップに行くのも大切だけど、やはり毎週最高のチームでプレーしたい」と考えると思います。
久保選手は「スペイン代表」にもなれる!?
とはいえ「ワールドカップで優勝する」というのもサッカー選手の大きな夢の一つです。日本国籍を捨て、日本代表になるのをあきらめて、その夢を捨てさるのは容易ではないでしょう。
ところが久保選手にはここにもまた「別ルート」があるのです。というのは久保選手の場合、スペイン国籍を取得し、スペイン代表になってワールドカップに出場するというチャンスが残されているのです。
「いやいや。久保選手はすでに日本代表でプレーしているのだから、スペイン代表にはなれないだろう。確かA代表の公式戦に1試合でも出場した選手は、他国の代表に鞍替えできないはずだ」
そんな声も聞こえてきそうですし、確かにその通りです。
「そうだろ? で、久保選手はコパ・アメリカで3試合に出場したよね? そしてコパ・アメリカは南米チャンピョンを決める公式戦だよね? キリンチャレンジカップは親善試合だったとしても」
これも当たっている点がほとんどです。ただ外れている点もあります。
というのは南米の選手にとっては公式戦のコパ・アメリカですが、「招待国」である日本にとっては公式戦ではないのです。つまりキリンチャレンジカップとコパ・アメリカしか出場していない久保選手は、日本代表としては「親善試合」のみで「公式戦」には出ていないのです(2019年6月時点)。
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(2019年7月09日訂正)A代表(フル代表)としては公式戦に出場していないですが、アンダーカテゴリーである「2017 U-20ワールドカップ」では出ています。よって代表チーム変更はできないようです。
よって久保選手はあと少しスペイン国籍が所得できるのを待ってスペイン代表に鞍替えして、ワールドカップ優勝を目指すことも可能なのです(もちろんスペインから声がかかり、久保選手も同意すればの話ですが……)。
将来の日本代表を担うと思えるほどの活躍を見せた久保選手が、スペイン代表になったとしたら……残念で仕方がありません。
この原稿を執筆している2019年6月27日から一番近い「公式戦」は、9月に行われる予定の2020カタールワールドカップの二次予選です(組み合わせは7月17日に決定)。その試合に久保選手が招集され、出場したら、もうスペイン代表になるという道はなくなるのでとりあえずは安心……かと思いきや、そうでもないかもしれません。
ワールドカップ出場よりも、レアルマドリードのトップチームでの出場に重きを置けば(おそらくプロのサッカー選手ならほぼ全員がそうだと思います)、所属チームでの試合に出るためにスペイン国籍を取得して、結果的にそれ以降、日本代表の試合に出られなくなることも充分にあり得ます。
重ねて言いますが、これはあくまでも「可能性」の話であり、そうならないことを祈ってはいますが……。
今回はちょうど話題の久保選手を取り上げました。ただ海外在住で、小さいときから外国人の間でもまれて実力を伸ばしている日本人サッカー少年たちもたくさんいます。サッカー以外のスポーツでも同じでしょう。いや、スポーツには限りません。
そうした若い才能を「二重国籍は認めない」という方針で手放してしまうのは、なんとももったいない気がします。
※(2019年7月09日追記)久保建英選手が他国の代表選手になれないことは判明しましたが、他の若いスポーツ選手と「二重国籍」の問題は相変わらず存在するので、掲載を続けます。
(文 柳沢有紀夫)
※(2019年6月30日追記) グアテマラ在住の海岸書き人クラブの会員でスペイン語に堪能な草野あずきさんが、スペインの市民権の取得について調べてくれました。それによると「一般的には連続して10年在住」が条件のようです。詳しくはコメント欄をご覧ください。
ただスポーツ選手への優遇措置のようなものもある国もあります。久保建英選手以外のスポーツ選手でも今回話したような問題が起こる可能性もあり、目が離せません。
※二重国籍問題に関しては下記もご覧ください。
【海外在住ライター直伝】日本は「二重国籍を認めていない」こと、ご存知でしたか?
【賀茂美則の視点】大坂なおみと二重国籍問題~認められないと困る7つのポイント
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おもしろそうな話でしたので、スペインへの帰化手続きについて少し調べてみました。
まず資格ですが、一般的には10年間連続して合法的に(つまりビザを取って)居住している必要があります。これは国籍によって例外がありまして、例えば難民なら5年、イベロアメリカ諸国(元スペインやポルトガルの植民地)だと2年、スペイン生まれの外国人なら1年となるようです。加えてスペイン語、スペインの憲法や社会文化の試験もあり、意外とハードルは高いのかも?(スペイン司法省のサイト→ https://www.mjusticia.gob.es/cs/Satellite/Portal/es/ciudadanos/tramites-gestiones-personales/nacionalidad-residencia1 )
だとすると久保選手はとりあえず大丈夫、ですかね。
草野あずきさん。ご指摘ありがとうございます。
スペイン国籍取得は「在住5年」という記事をどこかで見たのですが、
実際には10年なのですね。
ただ優秀なスポーツ先週の場合、「特例」が認められることが多いので、
そうならないことを願うばかりです。
FIFAの規則では、「ユースからA代表までの公式戦(親善試合除く)のいずれかに「一度でも」出場した選手は他国の国籍を取得しても、他国の代表にはなれない」ので、アンダーカテゴリーで日本代表として公式戦に出場している久保は、他国の代表にはなれませんよ。
ちなみに、久保は国際Aマッチであるキリンチャレンジカップのエルサルバトル戦に出場しているので、この点でも他国の代表にはなれません。
いずれにしても、EU圏外枠の厳しい競争を勝ち抜いてレギュラーを掴み取るしかみちはありませんね。
応援していきましょう!
テスコ様
ご指摘ありがとうございます。
キリンチャレンジカップは「親善試合」扱いで「公式戦」ではないのでこの場合関係なさそうですが、おっしゃるとおりアンダーカテゴリーの「2017 U-20ワールドカップ」で「公式戦」に出場しているので、代表チーム変更はありえないですね。
本文も訂正しておきます。
U21まで代表で出場していても、フル代表では別の国を選ぶことはよくあることですよ。
U21までは生まれ育った欧州の代表としてプレーしながらも、フル代表には選ばれないレベルの選手が、ルーツであるアフリカの代表を選ぶなんてのはありふれた話です。
テスコ様
コメントありがとうございます。アンダー世代と違う国のフル代表でプレーできるのは、以前から「二重国籍」を持っている人だけなんじゃないかと思います。
たとえば下記にウィキペディアの「国際Aマッチ」の項から引用です。
「A代表(国際Aマッチ)及び年代別代表のいずれかの代表の公式戦に一度でも出場した経験を持つ選手は、後述する重国籍者(複数国籍保持者)等の場合を除き、その後国籍の変更や追加をしても、その国の代表にはなれない(国籍の変更や追加をする理由の多くは、欧州リーグの外国人枠から外れるためである)。」
今後とも「世界のコトなら」をよろしくお願いします。
カゼミロはこのままレアルに在籍するとすれば、来年にはスペイン市民権取得できると思うので影響ないと思いますよ
あくまでカゼミロはですが
通りすがり様
ご投稿ありがとうございます。ああ、カゼミロもそんな在籍年数になりますか。
ちなみに久保選手はアンダーカテゴリーですでに「公式戦」に出場しているため、他の国の代表にはなれないようです(記事内でも訂正しておきました)。
これからも「世界のコトなら」をよろしくお願いします。、
皆様のコメントを拝読いたしましたが、まだ触れられていない事というか一つ疑問点があります。
久保建英選手が日本代表として試合出場経験(u17W)があり、代表チームの変更ができないことは理解いたしました。
それを逆手に取ることはできないのでしょうか?
つまり久保選手が「スペインのクラブに5年以上在籍することで市民権を取得し」(Wikipedia調べ)EU圏外選手枠から外れても、代表を変更できない久保選手は引き続き日本代表としてプレーできる…
というのも、もし代表の変更ができない日本人が国籍を変更した時点で日本代表の資格を失ったとしたら、もうその選手はどこの代表にもなれない事になります。それってどうなんでしょうか?
これは自分では調査しきる事が出来ませんでしたし、前例も見当たりません…
コメントありがとうございます。
調べれば調べるほどわからなくなります。とりあえず久保選手は日本代表で活躍してくれそうなので、そこはひと安心です。
これからも「世界のコトなら」をよろしくお願いします。