外資系企業で使われる言葉を集めたこのシリーズもいよいよ第3弾。今回は最も壮絶なバトルが繰り広げられる「プレゼン」まわりの言葉を集めてみました。外資系企業とのつきあいが始まりそうな方、ぜひご参考に。
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基礎編
1 プレ/プレゼン/プレゼンテーション
すべて、「得意先への発表」の意味。大きくなればなるほど、マーケティングプランナーからの「前説」が長くなり、ほぼ徹夜状態の続いたクリエイティブ(制作局)のメンバーは夢の国をさまようことになる。
2 インターナル
「インターナル・ミーティング」の略称。「社内会議」のこと。国内企業では「上司にプレゼンする」と言うことがあるようだが、外資系広告会社では「プレゼン」は得意先にするもので、社内のときには「インターナル」という言葉を使う(ただし企業によって状況が異なる場合もあるとは思う)。
3 ブリーフィング
一般的には「オリエンテーション」と呼ばれている、「得意先による企画内容説明会」。しかし、ブリーフィングって軍隊かよ! SWATかよ! とツッコミたくなる。でも、地図と方位磁針を持って山の中をさまよいそうな「オリエン」よりは、カッコいいかもしれない。
4 クライアント
「得意先」のこと。「スポンサー」という言葉を外資系で用いると、「ああ。その表現がナウでヤングでパンチが利いてるね」とツッコミを入れられる。
5 クライアント・ケア
「得意先へケア」とは、つまりは「接待」のこと。基本的には営業の仕事で制作の人間がかりださせることはあまりなかった。媒体の人間はテレビ局などに逆に接待されることが多かった。一度「今度の局接待、またハワイ旅行だって。気が利かねえなあ。もう厭きたよ」みたいな言葉を小耳にはさんだとき、つい頭の中に「死刑」という言葉がわかあがってきたことがある。……こっちは会社に泊まりこんで、ソファーとかで仮眠してるっつうのに。
6 ドメスティッククライアント
「日本(国内に本社を置く)企業」のこと。「家庭内暴力」を「ドメスティック・バイオレンス」と呼ぶように、「内部・内側」という意味。
最近では、国内企業でもこの言葉が用いられるようになった。以前、ある日本企業に勤める人と話していたら、「ウチの会社、もうホントにドメドメですから」という用い方をしていた。「ドメドメ」⇒「超ドメスティック」⇒「古い体質」という意図らしいが、外資系が新しいとは限らない。
7 コア・ターゲット
的の核、つまり、メインとなる消費者のこと。
8 コンペティター
競合他社のこと。はっきり言って「競合」といったほうが2音節で短い気がする。
9 レコメン
「レコメンデーション」の略。つまり「オススメ」。昼食を食べにいったとき、定食屋で「今日のレコメンは?」と訊いて、大将を凍りつかせた先輩がいた。もう外資病だ。
10 ディシジョン
「決定」の意味。「この間のプレゼン、どうだった?」「ポジティブな反応だったけど、まだクライアントのディシジョンが出てないんだよ」……議題になっているのがたとえチラシ1枚だとしても、「ディシジョン」というとなんだか大物感が漂う。
応用編
11 オータナティブ
「代案」のこと。最近では「オルタナティブ」と書かれることが多いけど、当時の私たちは「オータナティブ」と書き、それに近い発音をしていた。
プレゼンのとき「オータナティブが多ければ多いほど喜ぶクライアント(日本企業で、創業者が社長のところに多い)」と「レコメンも含めて3案以内とするクライアント(外資系で「テキパキ仕事をする」が信条のところに多い)」と、両タイプあった。
ある得意先の責任者に、「広告のプロであるあなた方が2番以降だと思っているオータナティブなんて、要らない。これだ、と思っているレコメン案だけ持ってきてくれ」と言われてシビれたことがある。
12 PPM
この場合は「大気汚染濃度」じゃなくて「プリ・プロダクション・ミーティング」。つまりCM制作前の最終打ち合わせ。これで衣装や小道具といった細かい点まできちんと得意先の確認を取っておかないと撮影現場でとんでもないどんでん返しを受けることになる。……事前に確認を取ってもあるのだから。
かつては「えーっ、それではピーター・ポール・アンド・マリー、もといPPMを始めます」とすべる人が続出したが、さすがに今の時代、そんなギャグを使う人はいないと思う。
13 ヘッドクォーター
本部のこと。つまり日本法人ではなく、外資系企業の本社のこと。日本法人のトップからOKが出ても、本社の以降でボツになることもある。ヘッドクォーターって、結構、石頭なんだな。
14 グルイン
「グループインタビュー」の略。新製品を発売するときや、新しい広告キャンペーンを始めるとき、ターゲットとなる消費者に集まっていただいて、座談会形式で意見を聞く場。得意先と広告会社は、マジックミラーの反対側とか別室のモニターで、様子を見る。
貴重な意見も聞けるが、あまりひっぱられると、商品も広告も凡庸なものになる。だが、「お客様は神様です」と思っているのか、これが大好きな外資系企業も多い。
「フォーカスグループ」という言い方もあった。
15 インサイト
ホンダのハイブリッド車のことではない。「(気づかなかった)真実」くらいの意味。営業なんかはグルインをすると、「あの消費者の発言にすばらしいインサイトがあった」と大騒ぎすることがあるが、制作は「そうかな?」程度にしか思っておらず、得意先もじつは結構さめて聞いていることが多い。
16 ターゲット・ポイント
目指すべき点。……「ゴール」でいいじゃねえか、「ゴール」で! しかし、なんでもかんでも「ターゲット」って、なんだか好戦的だね、広告業は。
17 ゴー・アヘッド
「次の段階に進む」という意味。「それはゴー・アヘッドしてもいいという意味ですか?」とか。「ゴーサイン」という言い方は、「パンチが利いている」と同格の冷笑を浴びせられることがある。
18 ペンディング
「保留」のこと。「あとまわし」ともいえる。再び議題に上らずに記憶のかなたに葬り去られる可能性のほうが高い。
19 ダブル・ミーニング
「一つの言葉で二つの意味を持つ」ということ。……はい、早い話がダジャレみたいなもんです。でも、結構、ガイジンにはウケた。よくよくみると海外の英字新聞なんて「ダブル・ミーニングでなければ見出しに非ず」みたいな感じだし。
20 ダイレクト・トランスレーション
直訳の意味。外国で使われているコピーをそのままダイレクト・トランスレーションしてくれという依頼も多く、これがコピーライター泣かせだった。
私が今でも覚えているのは、ある通販メーカーの海外のCMで”Call, click or come!”をぶらさげる(=最後に一言だけ加える)のがあって、これを日本語にして欲しいという課題だ。「電話をするか、(パソコンのマウスを)クリック(してネットで購入)するか、来店するか」という意味で、どちらも「c」の発音から始まっているし、一秒くらいで納まるいいコピーなのだが、日本で「クリックかお電話かご来店」とか「ネット、電話、お店で」だともっと時間がかかるし、語呂も良くない。
じつは「ううっ。”Call, click or come!”が訳せない~っ」と寝汗だらだらで苦しむ夢を今でも見ることがある。
このダイレクト・トランスレーションの傑作だと思うのはプロセッサーのインテルが使っている”Intel Inside”を「インテル、入ってる」と訳したもの。”Intel Inside”は前韻、「インテル、入ってる」は後韻の違いはあるにせよ、ちゃんと韻を踏んでいる。たぶん外資系の担当をして「ダイレクト・トランスレーション」で悩まされたコピーライターは全員、同じように「あれは秀逸だ」と感じていると思う。
あなたはいくつわかりましたか? 「外資語到達度チェック」
- 18~20問正解 明日にでも外資系に入れます。入りたいかどうかは別にして
- 15~17問正解 すぐに外資系に溶け込めます
- 12~14問正解 外資系と取り引きしても途中でふきだしたりせずに過ごせます
- 8~11問正解 「外資系ごっこ」で遊ぶことができます
- 0~7問正解 もう少し努力が必要です。……何のために?
「外資系用語シリーズ」全4回。他もぜひお楽しみください。
【文:海外書き人クラブ 柳沢有紀夫】
(「海外在住ライターを使ってみたい」と思われている方。「海外在住ライターになりたいと思われている方。耳寄りな情報があります。ぜひこのページの下のほうまでご覧ください)
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