こんにちは。海外書き人クラブお世話係の柳沢有紀夫です。
こんな肩書きを16年もつけていると、いろいろな方から「海外で暮らすので、ライターとして仕事を得る方法を教えてほしい」と相談を受けます。そこでそのノウハウを大公開します。
今回は、まずエッセイ編。「海外経験を商業媒体でエッセイにして連載したい」という方、必読ですよ。
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1 自分が「特別な存在ではない」と理解する
のっけからこんなことを書いて恐縮ですが、ご自身の立ち位置を理解するのは重要なこと。これを読まれているあなたは「有名人ではない」し、おそらく「日本での輝かしいライター経験もない」のではないかと思います。
もしも「いや、私は有名人だ」とか「私には名のあるライターだ」という方は……この文章なんて読む必要はありません。すぐに自分が書きたい媒体の編集部とコンタクトを取ればいいと思います。
というわけでこの先を読まれる方は、有名人でも名のあるライターでもないと想定します。
真実をまた突きつけてしまいますが、正直言ってあなたがある程度有名な雑誌やウェブサイトで海外エッセイを書くのは非常に難しいです。 というのは、あなた自身が「特別な存在」ではないからです。
海外旅行がむずかしかった時代(つまりバブル前の「新婚旅行で一生に一回の海外旅行をハワイへ」という時代)であれば、海外のことを書くだけで珍しがってもらえました。
ところが今や海外旅行は余暇の過ごし方の選択肢の一つにまでなりました(行く人はよく行くし、行かない人はほとんど行かない。つまり「趣味」の一つともいえると思います)。
そんな中、海外に住むという選択をする日本人も増えています。
今、海外に住む日本人はどれくらいいるかご存知ですか?
外務省が毎年発表している「海外在留邦人数調査統計」の平成28年要約版によると、その数131万7078人。つまり日本の人口の1パーセントです。しかもこれは日本国籍を有する人たちの統計ですから、国際結婚して国籍を変更した元日本人とか、在日韓国人・朝鮮人・中国人・台湾人の二世・三世・四世・五世などで「国籍は日本ではないけれども、日本語が最も得意な言葉」という人たちで海外在住している人も加えるとさらに増えるでしょう。
その130万人以上の中には、日本ですでに有名になった方も当然います。たとえばパリ在住の作家でミュージシャンの辻仁成さんなどがそうですよね。ニューヨーク在住の野沢直子さんも年に一度日本に「出稼ぎ」に行って芸能活動をするとか。他にも挙げようと思えばいくらでも挙げられます。
そして編集者は「海外生活のエッセイを載せるとしたら、どうせなら有名人のもの」と思うものです。そのほうが読者も興味を持ちますし。「ベストセラー小説を出すいちばんの方法はまず芸能人になること」と冗談のように言われることがありますが、あながちウソではない。海外エッセイに関してもそれと同じなのです。
こんな状態であなたが「海外に住みます(または「住んでいます」)。エッセイを書きたいんです」と日本の雑誌やウェブサイトなどの編集部にメールをしても……難しいというのはおわかりいただけますよね。
「一般人のエッセイなんて誰も読みたがらないよ」
そう考える編集者は、メールを読みはじめてすぐに興味をなくすでしょう。
私たち海外在住者にしてみたら、海外に住んでいるだけで特別なことをしているように思うかもしれませんが、すでに日本人の1パーセントが実行していることなのです。過去に住んだことがある人も含めれば、もっと増えます。駐在帰りの人たちがいますから。
たぶん「スポーツなどの全国大会に出たことがある人」とか「LGBTであることを公表している人」などに比べてもずっと多い、「そこらにいる人」なのです。……「そこら」ではなく、「海の向こう」にいるとしても。
もちろんLGBTの方のエッセイを読みたいという気持ちがあるのと同様、海外在住者のエッセイにまったく需要がないわけでありません。たださっきも書いたように、「海外エッセイ枠」みたいなものは、基本的にはかなり埋まってしまうのですね、有名人で。
とはいえここで話を終えるつもりはありません。「それでも海外エッセイを書きたいんだ!」というあなたに、いくつかのヒントをお伝えしましょう。
2 それでも海外エッセイを書きたい場合 (まずは自分のブログで書く)
私の知り合いの小説家がこんな話をしてくれました。
あるところで「小説家志望」という男子高校生に聞かれたそうです。「小説家になるにはどうすればいいんですか? アドバイスをください」と。
小説にもいろいろあります。その小説家自身は「ユーモア小説」とか「人情もの」とか「ラブストーリー」が得意な人。作品に少々ミステリー的またはSF的なニュアンスを加えることもありますが、「本格ミステリー」とか「警察小説」、はたまた「歴史小説」は門外漢。よって自分が彼にアドバイスする資格があるかどうかを知りたくて、こう聞いたそうです。
「具体的にはどういうものを書いてるの?」
「いえ、まだ書いていません。これから書いてみたいなあと思って」
……「小説家志望」の「志望」をここまで広義にとらえる人は初めて見た、と彼は笑っていました。
ただこの男子高校生と同様の「海外エッセイスト志望」の方は結構います。
「これから海外に住むんですけど、エッセイの仕事、ありませんか?」
「今、海外に住んでいるんでけど、エッセイを書きたいんです。いいえ、今まで書いたことはありません」
それで仕事が来ると思いますか?
というわけで、とにかくまずご自身のブログなどでエッセイを書いてください。それがないと、いざ「チャンス」が巡ってきたときでもどうにもなりません。
3 それでも海外エッセイを書きたい場合 (コネとツテを探す)
ブログを書き続けるのと同時にやらなければいけないこと。それは「コネでもツテでもなんでも駆使して、とにかく編集者を探す」ことです。
「編集者のコネもツテもないよ」
と、ここでギブアップする方は、どうぞご自由に。あなたの「海外エッセイを書きたい」という情熱はその程度のものなのでしょう。
普通の人は編集者の知り合いなんていません(いや、編集者の知り合いがいる人が「異常な人」と言っているわけではなく)。あなたが出版業界で働いていたり、大学時代にマスコミ研究会に所属していたりしなければ、編集者の知り合いが一人もいなくても全然不思議はありません。
日本にいたころ広告会社でコピーライターをしていた私も、編集者の知り合いは一人もいませんでした。フリーランスのコピーライターだと、たとえば雑誌の記事に似せた広告をつくる際に、編集者とのコネクションができることもあるのでしょうが、会社で働いているとそういう仕事はあまりなく……。
でもオーストラリアに移住することにして、現地でライターをすることに決めて、「とにかく編集者の知り合いを見つけなきゃ」と死に物狂いで探しました。会社の先輩や同僚に聞いたりして。そうして見つけた知り合いの知り合いにアポを取って会いに行きました。
また学生時代のバイト仲間の飲み会に行ったとき、偶然そこに来ていた5歳くらい下の人が編集者に転職したばかりだと聞いて、すぐに名刺交換して、後日会社を訪問しました。
とにかく探せばコネやツテは見つかるものです。見つからなかったら探し方が足りないと思って、もう一度探してください。
それに今の時代ならフェイスブックなどのSNSがあるじゃないですか。先輩や同僚たち一人ひとりに「向こうではライターとして生きていきたいので、知り合いの編集者がいたら紹介してください」と言いに行く必要もないですよね。
えっ? SNSでそんなこと聞くの、恥ずかしい?
そうおっしゃるのなら、あなたの情熱はそんな程度ということです。
4 会ったときやメールで連絡したときに「作品」を見せる
さて、そうしてなんとか知り合いの知り合いに編集者が見つかったとして。手ぶらで挨拶に行ったり、単にメールを送ったりしただけでは、依頼にはつながりません(この場合の「手ぶら」とか「菓子折りみたいなおみやげ」という意味ではありません。とはいえ人に時間を取っていただくのであれば、持っていくのが常識だとは思いますが)。
相手の編集者にしてみたら、あなたがどんなものを書けるのか、どのくらいの実力があるのかがわからなければ、依頼などできるはずもないことはおわかりいただけると思います。
そのとき見せられるように、ご自身のブログでエッセイを書き続けるのです。
私も実際、知り合いになった編集者の方々に、「オーストラリア在住ライターの柳沢を忘れないでくださいね」という意味で、日々の出来事をエッセイにして送っていたところ、ある編集者の方から「これをウチのサイトで連載してほしい」と依頼を受けました。
5 それでも知り合いの編集者がいない場合
一つオススメできるのが「ライターズネットワーク」という組織の「ライターズネットワーク大賞発表会および懇親会」に出席するという手です。
私も以前、この会に入っていました。辞めてしまったのは海外在住で「大賞発表会および懇親会」に合わせた一時帰国がなかなかできないからです。
この「大賞発表会および懇親会」をオススメする理由は、そこに編集者などもたくさん参加するからです。この会を立ち上げた金丸弘美さんがものすごく盛り上げるのが得意な方で、編集者もどんどん取り込んでいったのですね。
そこで知り合いをつくってしまえばいいのです。
かく言う私も移住前にこれに参加して……いや、じつは全然、他人に話しかけられなかったなあ。今でこそ初対面の人とでも意気投合できる厚かましいオッサンですが、当時はシャイだったんですね。
でも「懇親会」とか「ご歓談の時間」などというものは、知らない人に話しかけてもいい時間なんですね。ナンパとかキャッチセールスだと間違われて、避けられることもないですし。
というわけで紅顔の美少年なんてしていないで、厚顔のオッサンばりにいろいろな人に話しかけてみてください。その際、名刺だけでなく、「作品」やプロフィールを載せたA4サイズのちょっとしたチラシみたいなものを用意するといいと思います。
ライターズネットワーク http://www.writers-net.com/
6 まずは「海外記事」「海外コラム」から
「海外エッセイ」の仕事を得るのは難しいという内容になってしまいましたが、「海外記事」「海外コラム」ならそこまでハードルは高くありません。実際、記事やコラムを書く海外在住者を募集しているサイトもたくさんあります。
ひとまずそこで「海外記事」「海外コラム」を書くのも手です。それが編集者に会ったときの「おみやげ」になります。
また「海外記事」「海外コラム」を書いているうちに編集者に認められて、「ウチでエッセイを」と声をかけていただけることもあります。私がコーディネーションしている海外書き人クラブの仕事でも、つい最近そういう事例がありました。
まあ、「急がば回れ」です。
さてその「海外記事」「海外コラム」の仕事を得る方法についてですが……。ちょっと長くなったのでまた別の機会にします。
【まとめ】
- 「あなたは特別な存在ではない」という現状を把握する
- コネでもツテでもなんでも駆使して、とにかく編集者を探す
- 編集者に会ったときやメールで連絡したときに見せられるよう、ブログで書く
- ライターズネットワーク大賞発表会および懇親会
- まずは「海外記事」「海外コラム」から始めてみる
【文:海外書き人クラブ 柳沢有紀夫】
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