海外書き人クラブがお届けする『死語辞典』。「1950年代以前」に流行った死語とは? そのうち「タ行」から始まるものの意味と用例・用法をまとめました。
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チャンポン(する)
長崎名物でもなければ、谷村新司さんが歌うアリスのヒット曲でも、女性のアレの日のナニでもない。一晩に複数の種類の酒を飲むこと。
用例は「ビールと日本酒をチャンポンすると悪酔いするよ」とか。というか「チャンポンする」は「悪酔いする」というフレーズ抜きでは使われない。つまり「悪酔い」に隷属していた。明るい響きの言葉なのに、「チャンポンしたら明日は爽快」とか、「チャンポンしようぜ!」とかいった陽気な使われ方はしないのがなんとも哀れ。たとえていうなら、きれいな蛾みたいんもんだね。
私の親父世代(昭和一ケタ)は、「チャンポンで悪酔い神話」が根強い。酔いは摂取したアルコール量によって決まるので、科学的根拠はたぶんあまりないと思うが、酒を変えると飲む量が増えるとともに、アルコール度数が高まる可能性が高いことからこう言われたのだろう。「とりあえずビールで」→「大将、日本酒つけて!」→「ウイスキー、ロックで」という具合に飲み進むと、アルコール度数は「5パーセント前後」→「15パーセント前後」→「40パーセント前後」と、「倍々ゲーム」どころじゃない率で変化するからね。
ちなみに、「スピリタスとアブサンをチャンポンすると悪酔いするよ」とは言わない。前者がアルコール度数96パーセント、後者が70パーセント。もはやチャンポンどうのこうのというレベルを越えている。基本はビールとかチューハイとかアルコール度数の低いものと、高いものを合わせて飲むときに使う。
そう言えば、中学のときの友だちと大学時代の同窓会を開いたら、「ウチの大学のサークルではポン酒つまみにビール飲むんだよ~」というヤツがいた。でもそれは「つまみ」じゃなくて、「チャンポン」ね。いや、「チャンポン」というより「アンポンタン」だよ、その某サークル!
チンチクリン
背が非常に低いこと。子どもには使わず、大人の男性に対して用いられることが多かった。
やはりあまり好ましいとはされていなくて、用法としては「人間的に素敵だってことはわかってるわよ。でも、おつきあいはできないわ。あんなチンチクリンと」とか、「好きになるわけないでしょ、あんたみたいなチンチクリン!」とか。「言葉のナイフ」度は非常に高い単語。
ツルッパゲ
つるつるにハゲあがったこと。完全無欠のコンプリートリー・ハゲ。「ツル」の後にちっちゃい「ッ」をつけ、「ハゲ」を「パゲ」とはじけさせて、鮮やかに江戸っ子町人風の気風(きっぷ)の良い表現になった好例。「つるはげ」のままだと、京都のお公家さん風だもんね。
用法は「これはこれは、光り輝くほど見事な禿げっぷりですなあ。ツルッパゲと呼ばせていただきたいくらいです」とか。若いみんな。社長とか校長先生を絶賛するときに使ってね!
どうでもいいけど、昔は「ハゲ」はすごく笑われて、「将来、ハゲになったらどうしよう」と髪の毛が抜けるほど悩み、「ハゲよりも白髪のほうがいいよな」と友人たちと語り合ったものだが、最近では市民権を得た。ひとこと言わせてもらえば、「サンプラザ中野くんさん、ありがとう!」。あとクリスチャーノじゃないほうの元祖ロナウドとかロベカルとか、海外のツルッパゲサッカー選手の貢献も大きいと思う。
でくのぼう
このあと紹介する「トウヘンボク」とほぼ同じ意味だが、こちらの場合「図体ばっかりでかくて……」とか「体は立派だが頭のほうは……」というニュアンスがつく。それと「トウヘンボク」は年上や目上の人に陰口で用いられることもあったが、「でくのぼう」は後輩や新入社員など年下が主なターゲットだった。
たとえば「おまえってヤツは本当にでくのぼうだねえ」とか。
近い意味の言葉で「ウドの大木」があるが、こちらはウド鈴木さんの登場により、「死語化」は免れている。
【類義語】 アンポンタン オンタンチン/オタンチン オタンコナス トンチンカン トウヘンボク うすらとんかち こんこんちき イカレポンチ すっとこどっこい ウドの大木
でこっぱち
おでこが広いこと。主に男性に対して使う。用法は、「お前、でこっぱちだなあ。デコピンしてもいい?」とか。……いいわけないよね。
【関連語】 デコピン
トウヘンボク
物事の機微を理解しない人、気の利かない人。役立たず。わからず屋、頑固者。今の「KY」もこれにあたる。
「このトウヘンボクが!」というように用いられるが、発音の仕方としては「こ~の、トウヘンボクがっっっ!」という感じでタメと抑揚がつく。わからない人は50代以降の人を捕まえて言ってもらってください。
【類義語】 アンポンタン オンタンチン/オタンチン オタンコナス トンチンカン でくのぼう うすらとんかち こんこんちき イカレポンチ すっとこどっこい
とっちゃん坊や
実際は「おとっちゃん」(お父さん)と言える年齢なのに、言動または外見が坊やレベルである男のこと。どちらかと言うと「外見」に関して言うことが多かったような気がする。
たとえば「散髪すると、とっちゃん坊やだね」とか。「言葉のナイフ」度は「チンチクリン」並みの最強レベル。
こういう外見をした人が閑職に追いやられると、「窓際のとっちゃん坊や」と言われた(『窓際のトットちゃん』(1981年)と「とっちゃん坊や」とのコラボレーション)。
誤用だとは思うが「オッチャンに見える少年」を指すことも。有名な例は子役時代のえなりかずきさん。
トンチンカン
話やタイミングがずれている様子、またはそういう人。私が使っている大辞林の説明によると「鍛冶屋の相槌(あいづち)の音から来た語。いつも交互に打たれていてそろわないことから」とのこと。
用法は「何、トンチンカンなこと、言ってんだよ!」とか。
ちなみに1966年に放映が開始されたアニメ『魔法使いサリー』のサリーちゃん。その友だちである花村よし子ちゃんの弟たち(三つ子)の名前が、「トンチンカン」にちなんで「トン吉、チン平、カン太」。もう一つついでに言うと、私は「サリーちゃん派」ではなく断然「すみれちゃん派」だったが、「よし子ちゃん派」という人に会ったことは今まで一度もない。さらにつけ加えるなら、キャンディーズで言うと「ミキちゃん派」だが、これも意外と少数派らしい。「トン吉、チン平、カン太」の三人の中では……どうでもいいか。
【類義語】 アンポンタン オンタンチン/オタンチン オタンコナス トウヘンボク でくのぼう うすらとんかち こんこんちき イカレポンチ すっとこどっこい
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