【死語辞典】(80年代「マ~ワ行」の死語まとめ)

海外書き人クラブがお届けする『死語辞典』。「1980年代」に流行った死語とは? そのうち「マ~ワ行」から始まるものの意味と用例・用法をまとめました。

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【マ行から始まる死語】

まったりとしていてそのうえコクがあり、それでいてあっさりとなめらかな

雁屋哲さん原作・花咲アキラ作画の漫画『美味しんぼ』(1983年~)で有名になったフレーズ。「まったり」と「あっさり」という、通常は相反するものが高いレベルで共存するのが、「究極」のうまさとされたのだろう。アサヒスーパードライの「コクがあるにキレがある」というキャッチコピー(1986年)も、同様の考え方。

おそろしくインパクトのあるフレーズというか言い回しだったから、それだけパロディーのネタになりやすい。食事中だけでなく、その他の場面でも。たとえば、「理想の女。それは、ベッドの上ではまったりとしていてそのうえコクがあり、なめらか。それでいて、別れ際はあっさりと……」とか。

【関連語】 究極の/至高の

マル金/マルビ

「マル金」は「金」の字を丸で囲ったもので、やることなすことすべてがポジティプな方向に進んで高収入が得られる「お金持ち」のこと。「マルビ」は「貧乏」の「ビ」の字を囲ったもので、「マル金」とは逆になんでもかんでもネガティブなほうに行ってしまうどん底生活のこと。渡辺和博の『金魂巻(キンコンカン)』(1984年)で流行った。

「マル金とマルビの間に〈中間層〉があるだろう」と思われるかもしれない。当時は「一億総中流」などと言われていたし。

だが、じつは全体の1パーセント程度が「マル金」で、残りの99パーセントが「マルビ」だったのだ。「ヤンエグ」が話題になったとしても、そんな人、ほとんどいなかったもの。そういう意味では「アメリカ型の極端な格差社会に突入した」と言われる現代日本の図式を、渡辺和博さんは30年以上も前に予見していたかもしれない。

【関連語】 ネクラ/ネアカ

ミツグくん/貢君

女の子に高級な服飾品やアクセサリーといったプレゼントを「貢ぐ」だけの存在。貢ぐ男だから「ミツグくん(貢君)」。なんとなく隠語風にしようとはしている「アッシー」や「メッシ―」と比べてそのままズバリで、あまりに身もふたもない呼び名。

貢いだからと言って、何の見返りもない。もちろん「アッシーかつメッシーかつミツグくん」という三重苦に陥ることもあった。

ちなみに、当時特に人気があったアクセサリーはティファニー。

【関連語】 アッシ― メッシ― キープくん タカビー

耳がダンボになる/耳ダンボ

興味深い話に、思わず聞き耳を立ててしまうこと。耳をそばだてること

「ダンボ」とはあの有名な象のキャラ。聞き洩らしたくない話なので、思わず象のように耳が大きくなってしまうという秀逸な表現。最初に考えた人はすごいと思う。

用例は「電車で隣に座っていた二人組が、ものすごい儲け話をしてたんで、思わず耳がダンボになっちゃいましたよ」とか。

名詞形にした「耳ダンボ」という表現も同じ意味。用例はま「昨日飲み屋のカウンターで、かわいい女の子が二人、エッチな話をしてたんだよ」「そりゃあ、耳ダンボになるわあ」とか。

メッシー/メッシーくん

FIFA最優秀選手に何度も選ばれている史上最高の呼び声も高いアルゼンチン出身のサッカー選手、ではない。

「アッシー」の類義語。こちらは高級な飯を食わせてくれる男」のこと。「飯」だから、「メッシー」

飯は食べさせてもらった代わりに、女性のほうから「餌」を戦略上ちらつかせることはあっても、実際に与えることは、もちろん皆無。このあたりも「アッシー」と同じだ。

もちろん「アッシーかつメッシー」という泥沼の状態に陥ることもあった。

ちなみに当時、人気があった料理はイタリアン。「イタめし」なんていう言葉もあった。ただ、メッシーくんたちのことを思うと、「イタめし」とか「イタリア料理」の言い換えというよりも、「イタい飯」の略のような気分になってくる。

【類義語】 アッシ― ミツグくん

【関連語】  タカビー キープくん

メンゴメンゴ

謝罪の気持ちを示す「ゴメン」のこと。文字の順番を逆さにして、二度重ねて、ちょっと軽い雰囲気で。……お前ら、真面目に謝れないのか!

目上の人や得意先には使えない言葉。用法は「ちょっと遅れちゃったね。メンゴメンゴ!」。デートの待ち合わせでこう言うと98パーセントくらいの確率で怒りを倍増される。理由は……そう、ほとんどの場合、男にとってカノジョとは「目上の人」だからです。

【関連語】 許してチョンマゲ

~モード

「~の方向性で」とか「~であることを優先して」といった意味。

じゃあ、極力即行モードでお願いね」とか。意味的には単に「即行でお願い」と変わらないが、なんか少しオブラートにくるんだ表現。

モチのロンロン!

「もちろん!」という同意の意味だけど、これまたちょっとカルく。調子がいい分、言われてもまったく信用できない。

用法は「これ、明日までにできる?」「モチのロンロン!」。……翌日、間違いなく同じ依頼を繰り返しているはず。

モッコリ(する)

どぶろくみたいな韓国のお酒……ではない(それは「マッコリ」ね)。

ジャージ、トレパン、薄いパンツ(ズボン)の上から、男性のあの部分が目立ってしまうこと。こんもりと盛り上がっているように見える状態を示した表現。というか「周囲よりももりあがっている状態」を表す「もっこり」という言葉自体は昔から存在した。男性のあの部分を表現するのに用いるようになったのは、おそらく1980年代だと思われる。

モッコリする原因としては「海綿体の充血」がほとんどだが、服の形状や素材のやわらかさで「モッコリ」に見えることもある(類義語の「テントを張る」は、後者の場合は使わない)。

前者の用法は「あんな姿見せられたら、思わずモッコリしちゃうよな」とか。後者は「フレディー・マーキュリーの衣装って、モッコリだよね」とか、「男のバレエダンサーって、モッコリが恥ずかしくないのかな?」とか。

【類義語】 ビンビン ギンギン テントを張る

【ヤ行から始まる死語】

ヤンエグ

「ヤングエグゼクティブ」の略。本来的には「若き重役」の意味。中には本当の「青年実業家」とか「創業家の二代目」とかもいたが、ほとんどの場合は役職が本当に重役なわけではなく、「重役のように羽振りがいい若者」のことを指した。

ただし、本人の「収入」が高いというよりも、「交際費が経費としていくらでも落とせる」といった程度の羽振りの良さ。銀座や六本木のクラブ(大音量の音楽にあわせて踊るほうではなく、ソファーでホステスさんとしゃべるほうね)で、一人でまたは仲間と飲んでも「得意先接待費」として経費で落とせて遊んだあと終電前にタクシーで帰宅しても会社に請求できるというタイプ。「タクシー券(略称「タッ券」)」も使い放題で、一緒に飲んでいる子たちにもバラまけるのが、真のヤンエグだ。

バブル期の不動産や証券業界、マスコミ業界にいたと思われる。

そう言えば、ヤンエグという年齢ではないが、当時五十歳くらいで大手証券会社に勤めていた人から、「交際費は月200万円だったよ」と聞いたことがある。……そりゃ、つぶれるわな、山一證券。「社員は悪くないんです」って社長は言ったけど、「交際費月200万円」使う社員が悪くないとしたらいったい世の中の誰が悪いのか?

許してチョンマゲ/許してチョ

「許してちょうだい」からの派生。意味もそのまま。

ひとこと言わせてもらうと……あのさあ、もう一度だけ言うよ。「真面目に謝れよ、80年代のオレたち!」

用例は「えっ、今日はクリスマスイブ? うわっ、オレ、クリスチャンじゃないからプレゼント買うのすっかり忘れてた。許してチョンマゲ

要するに言わないほうが許してもらえる確率がずっと高まるフレーズだ。

ちなみに「許してチョー・ヨンピル」という言い回しもあった。「チョー・ヨンピル」とは、日本でも当時「釜山港に帰れ」をヒットさせた、韓国の国民的歌手。

【関連語】 メンゴメンゴ

よっこいしょういち

「よっこいしょ」という掛け声にオマケをつけたもの。ジャングルに隠れていた元日本兵・横井正一(よこいしょういち)さんの名前から。

用例は「あっ、そっち持って。じゃあ行くよ。よっこいしょういち!

ただフレーズが長くなったおかげで、いったいどこで力を加えていいのがわからない欠点があった。つまりなんとも脱力系の掛け声。

余裕のよっちゃん

余裕で、簡単にできる」の意味。「よっちゃん」の「よ」は、単に「余裕」と韻を踏んだものだと思われる。

たとえば「そんな仕事なら余裕のよっちゃん!」。……こう言われたら、「コイツ、安請け合いしたけど、後でほっぽりだす可能性が高いな」と、あらかじめ注意しておいたほうが得策。

よろしくする

男と女が仲良くすること。もっと端的に言うとエッチをすること。特にいつもの相手とではなく、偶発的・タナボタ的にしたときに用いる。「昨日、合コンで会った子と意気投合して、さっそくよろしくしちゃったよ」とか、「中学のときの同窓会で会った昔のカノジョとよろしくしちゃってさあ」とか。

【類義語】 ニャンニャンする ズッコンズッコンする パッコンパッコンする チョメチョメする ご休憩する

よろぴく

もちろん「よろしく!」の意味。ちょっとふざけた言い回し。仲間や同僚には「じゃ、あとはよろぴく」と言えても、目上の人や得意先には「よろぴくお願いします」とは言えない。

語呂合わせの「4649」をそのまま数字で呼んで、「じゃあ、あとはヨンロクヨンキュー!」なんていう回りくどい言い方をする人もいた。たいてい、ちゃんと仕事してない人だよね、そこまでの時間的余裕があるってことは。

【ラ行から始まる死語】

ルンルン

若い女性(特に中学生から二十歳前後)が、「うれしい」など好ましい状態のこと全般を表現する万能表現。万能という意味では、現在の「カワイイ」に似ているかもしれない。

用例は「私、今、彼とルンルンなんだ」(仲良しな状態)とか、「なんだか今日はルンルンしちゃう」(気分が高揚している状態)とか。

今日は憧れのカレとデートです。ルンルン」とか、感嘆詞的な使われ方もした。

のちに、林真理子さんの『ルンルンを買っておうちに帰ろう』(1982年)、中森明菜さん主演のキャノンのコピー機のCM「ルンルンとれる、ミニコピア」(1983年)などにも使われた。

レッツラゴー

「レッツゴー」のこと。たとえば「じゃあ、そろそろ出発しよか。レッツラゴー!」。

でもゴール前の直接フリーキックで守備側チームの選手がつくる壁の中に割り込んできた攻撃側チームの選手みたいな、強引な「ラ」はなんだったんだろう、いったい。個人的にはこの「ら」をピンポイントで狙って、インステップキックで弾丸シュートを撃ちたくなる。「よっこいしょういち」同様、脱力系の掛け声。

【ワ行から始まる死語】

ワンレン

「One Length」の略。つまり「一定の長さ」で切りそろえた髪型のこと。

「一定の長さ」といっても、ワカメちゃんのそれは、ワンレンには入らない。肩より下、肩甲骨にかかるくらいの長さで、かつストレートで、LAXのコマーシャルに出られるくらいつやつやの髪質であることが条件。当時、ワンレンで人気があった女優は浅野温子さん。それと髪の長さはワンレンできちんとそろっているのに、なぜかドラマ『ふぞろいの林檎たち』に出ていた手塚里美さんと石原真理子さんも。

髪の毛をかきあげる場合は、分け目の部分から斜め後ろに。そう言えば、ワンレンの女の子はいつも首が傾いていたが、寝違えたわけではない。肩こりでお困りかと思い、もんであげたいなと思うやさしさを持ち合わせていた私だが、ワンレンの子たちにそんなやさしさはなく、触らせてももらえることなど一度もなかった。

……なんで泣きながらこの原稿、書いてるんだ、私?

【関連語】 ボディコン

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