(海外書き人クラブがお届けする『死語辞典』が、1980年代に流行った「ハイソカー」の意味を解説します)
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「ハイソサエティー・カー」の略。つまり「上流階級的な車」のこと。ただし本当に上流階級が乗っていた(かどうかは知らないが)ロールスロイスとかリンカーンとかキャデラックのことではない。
クラウンの名作キャッチフレーズに「いつかはクラウン」とあるように、トヨタは「カローラ」(平社員)→「コロナ」(係長)→「マークⅡ」(課長)→「クラウン」(部長)という「出世魚戦略」を取っていたらしい。販売会社の営業マンなんかも、「えっ、昇進されたんですか? おめでとうございます! じゃあ、そろそろマークⅡですね」みたいなことを言っていたとか、いないとか。
ただここに強引に割りこんできたのが、トヨタ・ソアラだった。「出世魚車」がすべて4ドアセダンなのに対して、2ドアクーペ。高性能でスポーティー。かと言って、トヨタ・セリカ、日産スカイライン、日産フェアレディZ、マツダRX-7のように、バリバリのスポーツ路線でもない。このあたりの微妙なバランスが、ウケたのだね。特に女子大生や若い女性をひっかけるためには、特大の効果アリ……だったらしい。
ただ、このハイソカー・ブームにより、今までの「出世魚車」をぜーんぶ「オヤジ車」というか「ファミリーパパ車」的な、ダサい印象にしてしまったとかんがえると、トヨタは戦略的にどうだったのだろうか。このあたりが「ハイソカーだぞ」と自慢されても、「はい、そーですか」と素直に称賛できない理由だ。……すみません、オヤジで。
この2ドアクーペの路線では、ホンダ・プレリュード、日産・レパード、日産・シルビアあたりも、ハイソカーに分類される。
重厚なイメージのあるスバルでさえも便乗して、アルシオーネという2ドアクーペを出した。当時、ある自動車雑誌の読者投稿イラストで、「究極のナンパ車。ズバリ・アレ、シヨーネ」というネタが載っていて、私は「この投稿者は天才だ!」と興奮した覚えがある。
三菱スタリオンといすゞピアッツァも、この系列。
トヨタ・カリーナEDという車もあって、自動車評論家の故・徳大寺有恒さんに酷評されていた。「ED(勃起不全)の人がハイソカーで女の子を引っかけようとは、何ごとだ!」……なんてことをおっしゃるわけはなく、「無理に車高を低くして、居住空間を損なっている」みたいな話だったと思う。無理に車高を低くしているという話は、まさにその通り。身長180センチ強の私は天井に頭がつかえそうだったもの。身長が高い(いや、「座高が」か)私は見向きもしなかったし、車のほうも私に見向きもしなかった。ついで言うと、ハイソカー好きの「いい女」どもも私に見向きもしなかった。……余計なお世話である。
さて、「2ドアクーペ」とは別に、「4ドアハードトップ」のハイソカーもあった。代表車種は、トヨタ・マークⅡ(のセダンではなく4ドアハードトップ)、クレスタ、チェイサー、日産セドリック、グロリアあたり。こちらは若者というよりも、家庭を持つオジサマが、今でいうところの『日経おとなのOFF』的または「ちょい悪オヤジ」系のことを目論んで購入する場合が多かったのかもしれない。子どもがいるのに2ドアクーペを買いたいと言っても、奥さんをなかなか説得できないけど、4ドアならOKだろ、みたいな。
ただし日産のセドリックとグロリアは後年、暴走族御用達みたいになってしまった。
当時のハイソカーで人気の色は「スーパーホワイト」! クリーム色っぽさがまったく含まれない、正真正銘の白! 目にもまばゆい白! 洗剤のCMみたいだけど。唯一の例外はホンダ・プレリュードで、赤がイメージカラーだったと思う。
デザインは、個人的には日産シルビアは秀逸だと思ったが、他は直線的すぎたり、オモチャみたいだったりして、好きなものはなかったなあ。ハイソカーのほうも、私のことを好きにはなってくれなかったけど。ハイソカー好きの「いい女」も(←しつこい)。