ロシアおよびコーカサス地方の研究をしている海外書き人クラブ会員の谷川ひとみです。今回は最近日本で流行りつつあるジョージア料理の「本当の国民食」を紹介したいと思います。
ジョージアは、黒海とカスピ海の間の南コーカサス地方に位置する国で、人口500万程度の小さな国です。
ジョージア料理が日本に広まるきっかけとなったのは「シュクメルリ」でしょう。シュクメルリとは、にんにくのパンチが効いたシチューのような料理です。牛めしチェーンの「松屋」でシュクメルリを出したことを皮切りに、コンビニでシュクメルリ弁当が発売され、さらに冷凍シュクメルリまで登場しています。あっという間にどんどん定着しているようですね。
でもジョージアではシュクメルリって代表的な国民食、もしくは民族料理というわけではないんです。ジョージアでも日本でシュクメルリが流行っていることはニュースになり、
「なぜシュクメルリが?」
と不思議がられたようです。
それではジョージアの本当の国民食とはなんなのでしょうか? それは大きな水餃子の「ヒンカリ」、そして今回紹介する「ハチャプリ」です!
ハチャプリは一般にチーズパイのようなものだと認識されています。しかしこれはジョージアの地方によって形も具材も様々です。丸型も四角型もあり、具材はチーズが王道であるものの、豆やジャガイモなどバリエーションがあります。したがって「これがハチャプリ!」と説明するのは難しいです。
ここでは、私のお気に入りの3種類のハチャプリを紹介します。
1 アチャルリ
ジョージア西部のアチャラ地方のハチャプリということから「アチャルリ」と呼ばれています。アチャルリはなんといっても舟形をしていることが特徴と言えるでしょう。見た目のインパクトもあって、旅行者にも大人気です。
アチャルリの真ん中にはチーズ、その上に半熟の卵がのっており、チーズと卵を混ぜ合わせたときのトロッと感がたまりません。パンをちぎって真ん中のチーズと卵に絡めて食べましょう。パリッとしたパンとトロトロチーズの組み合わせはまさに幸せの味です。
きちんとフォークとナイフで食べるのはナンセンス! 手でちぎって食べましょう。あえていうなら中身のチーズと卵がこぼれないように注意しながらパンをちぎると良いです。きれいに食べられればあなたもアチャルリマスターです。
2 アチマ
「アチマ」は少々変わり種のハチャプリと言えるでしょう。どの地方のハチャプリかは諸説あるようです。とはいうもののジョージアの北西部と考えるのが一般的なよう。
アチマはパンというよりは、どちらかというとラザニアに近い食べ物です。何層にも重なった生地の間にチーズが挟まっており、作るのに最も手のかかるハチャプリと言われています。家庭でこれを作る人はジョージアでもあまりいないでしょう。
具であるチーズに卵は混ざっておらず、アチャルリのようなトロっとした感じはありません。でも、しっとりしたパイ生地のような触感に、モッツァレラチーズにも似た何とも言えない歯ごたえのチーズが合わさり、フォークが止まりません。アチマはジョージアのレストランやカフェでもメニューの定番ではないようです。食べたい場合は事前に調べてくださいね!
3 イメルリ
「イメルリ」はジョージアの中央部、やや西寄りのイメレチア地方のハチャプリです。ジョージアで最もポピュラーなハチャプリではないでしょうか。
イメルリはチーズの入った平たいお饅頭のような形をしているとでも言えるでしょうか。お饅頭を作る要領で具材を生地に包み、具の入った生地をつぶし、さらに棒で伸ばして焼いて作ります。
写真に写っているのは、具材がチーズではなく豆のペーストのイメルリです。ジョージア語でこの豆をロビオと言いますが、ロビオが具に入っているイメレチア地方のハチャプリで通称「ロビアニ」と呼ばれます。
イメルリやロビアニはその形状から手で持って食べやすいせいか、キオスク(街中のスタンド風売店)やパン屋さんなどいたるところで売られています。しかし手軽に食べられる一方で、お気に入りのイメルリはどこのお店の物か、議論になることもしばしば。あちこちで食べ比べてみるのも楽しいでしょう。
ここで紹介できたのはハチャプリのほんの一部。他にもメグルリ、もしくはこれと言って固有名詞のついていないご当地ハチャプリはたくさんあります。生地の作り方も、通常のパンのようにイースト菌を使うものもあれば、ヨーグルトやケフィアで発酵させるものもあります。もはや何をもってハチャプリというのかわからない程です。
ハチャプリはレストランやカフェで味わうのはもちろんですが、手軽な出店のようなスタンドでも売っています。家庭ではもちろん、高級レストランからスタンドでも食べられるハチャプリはまさにジョージアの国民食と言えるでしょう。
また、ハチャプリは日本では再現しにくいジョージア料理の代表と言われます。味の決め手となるジョージア風のチーズが日本では手に入らず、代替品も見つかりにくいからです。とはいっても、パンにチーズがおいしくないわけはありませんね。多少本場と味が違ってもシュクメルリの次のジョージア料理として定着する日が待ち遠しいです。
(文・写真/海外書き人クラブ・谷川ひとみ)