みなさんが住んでいる場所は暮らしやすいですか? 毎年発表される「世界住みやすい都市ランキング」に納得していますか?
こんばんは。海外書き人クラブ所属、国際比較文化ジャーナリストの柳沢有紀夫です。今日は2つの「世界住みやすい都市ランキング」を比較することで、何が見えてくるかについて書きたいと思います。
最初に紹介するランキングはこちらです。
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「エコノミストインテリジェンスユニット」のランキング
「Eeconomist Intelligence Unit」はイギリスの経済紙「エコノミスト」の関連会社で毎年「Global Liveability Ranking(世界住みやすさランキング)」を発表しています。何はともあれ、その2016版を見てみましょう。
- 10位 ハンブルグ(ドイツ)
- 9位 ヘルシンキ(フィンランド)
- 8位 オークランド(ニュージーランド)
- 7位 パース(オーストラリア)
- 同率5位 アデレード(オーストラリア)
- 同率5位 カルガリー(カナダ)
- 4位 トロント(デンマーク)
- 3位 バンクーバー(カナダ)
- 2位 ウィーン(オーストリア)
- 1位 メルボルン(オーストラリア)
私が住むオーストラリアから3都市が入っているのは喜ばしいような、でも実際に私が居を構えるブリスベンの名前が見当たらないのが残念なような気分です。メルボルンやアデレードに住む人からはよく羨ましがられるんですけどね、「ブリスベンに住んでいる」というと。
そして残念ながら日本の都市は見当たりません。
このランキングは世界の140都市を比較したものです。「安定性」「医療・健康」「文化と環境」「教育」「インフラ」の5つの領域から30のファクターを数値化したそうです。
「モノクル」のランキング
「MONOCLE」も「エコノミスト」と同じくイギリスに拠点を置くウィンコンテント社が出す、世界の「情勢、ビジネス、文化、デザインなどなど」を解説する雑誌で、ここも毎年「THE MONOCLE QUALITY OF LIVE SURVEY(クオリティオブライフ調査)」を発表しています。 その2016年版を見てみましょう。
- 10位 ストックホルム(スウェーデン)
- 9位 京都(日本)
- 8位 シドニー(オーストラリア)
- 7位 福岡(日本)
- 6位 メルボルン(オーストラリア)
- 5位 ミュンヘン(ドイツ)
- 4位 コペンハーゲン(デンマーク)
- 3位 ウィーン(オーストリア)
- 2位 ベルリン(ドイツ)
- 1位 東京(日本)
今度は一転して日本から3都市がランク入りしているだけでなく、東京が第1位。これは2年連続です。
このランキングは「交通アクセスの利便性」「失業率」「不動産価格」「治安」「博物館の数」「食事の質」「商店の質」「10時以降においしい食事にありつけるか」「救急車の到着時間」などなどが基準です。「夜10時以降においしい食事にありつけるか」とか「救急車の到着時間」とか、なかなかおもしろいし納得できる視点だと思います。というのは夜9時や10時になるとレストランがことごとく閉まってしまう都市もあるからです。
それから「ナイトクラブが終わる時間」「チェーンではない独立系の書店の数」「航空機の国際便が何都市と結ばれているか(トランジット利便性)」「語学学校の数」など、ちょっとユニークなファクターも調べられています。数が減っているとはいえ、まだまだ街の小さな本屋さんは多いですから、「チェーンではない独立系の書店の数」あたりは、東京は強いでしょうね。
両者を比較してみると……
この2つの調査を比較してみるとおもしろいことにいくつか気づきます。「エコノミストインテリジェンスユニット」で1位のメルボルン(オーストラリア)が、「モノクル」で6位なのはまだしも、「モノクル」で1位の東京が「エコノミストインテリジェンスユニット」ではなんとランク外。
さらに両者でランクインしてるのが、メルボルン(オーストラリア)とウィーン(オーストリア)だけ。残りの各8都市、合計16都市は片方でしか選ばれていないのです。
なぜ同じ「世界の住みやすい都市ランキング」(名称はそれぞれ違いますが)で、こんなにも差が出るのでしょうか。
理由は両調査において「どういうファクター(因子)を調査したか」が違うからです。同じファクターを調査すれば、基本的には数的データに基づいたものですから、同じになるはずですよね。
そして調査したファクターが違うのは、「誰がどんな基準で調査したか」が違うからです。「エコノミスト」は経済誌ですから、読者であるビジネスマンが赴任したり投資したりすることを考えた基準になっているでしょう。一方「モノクル」は世界のことを扱いますが情勢、ビジネスといった政治経済的な話ばかりでなく、文化やデザインといった分野も話題にします。つまりこちらのほうがもっとジェネラルで「様々な人が幸せに暮らせるランキング」の近いのかもしれません。
ただ「独身の若者が住みやすい都市」と「子育て世代が住みやすい都市」と「お年寄りが住みやすい都市」の基準は違いますよね。「独身の若者」なら「ナイトライフの充実」あたりが大きなウェイトを占めそうです。「子育て世代」なら「日本死ね!」で話題の待機児童の問題ではないですが、「子ども一人あたりの保育園・幼稚園の数や費用」「学校の数」「公園の数」が重視されそう。いや、今迂闊にも「子育て世代」と書きましたが、同じ30代・40代でも「子どもがいない夫婦」や「独身者」だと基準が違ってくるでしょう。そして「お年寄り」なら高齢者の運転する車の事故が話題になっている昨今、「商店街の数」や「コンビニの数」や「面積当たりの駅の数と電車の本数」も重視されるかもしれません。
あなたがつくるとしたら、基準は?
それともう一つ。こういう欧米のランキングを見ると、日本人の悪い癖で一喜一憂しがちですが、これらはあくまでも「ある一つ基準」によってつくられたランキングです。基準が違えば、順位も当然違ってきます。同じイギリスの会社なのに「エコノミストインテリジェンスユニット」と「モノクル」では全然違うように。先ほど書いた世代や子どもの有無でも違うように。
で、一つ提案です。「あなたが世界の住みやすい都市ランキング」をつくるとしたら、どういうものを基準にするか考えてみてはいかがでしょうか? たとえば寒がりの私なら、「温暖な気候」はかなり大きな位置を占めます。「エコノミストインテリジェンスユニット」と「モノクル」の各トップテンのうち半分はその時点で脱落します。あなたの基準はどうですか? その基準があなたが求める「理想の生活」。その生活に、あなたはどこまで近づいていますか?
ただランキングなどの「情報を得る」だけでなく、そこから「考える」ようにすると、世界を見る目がもっと広がります。そしてあなた自身の「クオリティオブライフ」も上がるはずです。
また大手メディアや研究所、学者の方は、日本人の基準で「世界の住みやすい都市ランキング」をつくって発表すると、彼我の違いがクリアになっておもしろいと思います。もう文明開化の時代ではないですから、外国からのものをありがたがるだけではなく、どんどん発信すべきです。
そして最後に。そもそも「都市」が暮らしやすいのか。「田舎」のほうがいいのかも議論がわかれるところかもしれませんね。
以上、国際比較文化ジャーナリストの柳沢有紀夫でした。
【まとめ】
- ランキングなんて、誰が何を基準にするかによって変わります
- ご自身の「世界の住みやすい都市ランキング」をつくると、あなたの求める「クオリティオブライフ」が見えてきます
- 情報を得るだけで終わるのではなく、それを考える材料にしましょう
- 日本人が発信する「世界の住みやすい都市ランキング」も見てみたいです
【文:海外書き人クラブ 柳沢有紀夫】
(「海外在住ライターを使ってみたい」と思われている方。「海外在住ライターになりたいと思われている方。耳寄りな情報があります。ぜひこのページの下のほうまでご覧ください)
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