監獄や処刑場として使われた「ロンドン塔」。「今も亡霊がさまよい続ける」という噂まであるのですが、なぜか大人気の観光スポット! しかも最低所要時間は2時間と見どころ満載!
そんな「ロンドン塔」の何が観光客を惹きつけるのか、海外書き人クラブ新会員のロンドン在住ライター、中原が潜入してきました!
トンネルを抜けたらローマ時代の壁がお出迎え
最寄り駅は地下鉄「Tower Hill」。駅直結といっていいくらいの近さなので、迷いようがありません。案内看板に添って地下道をくぐると、目の前にまず飛び込んでくるのが、古い壁の跡。これはローマ時代の市壁(ロンドン・ウォール)を利用した城壁の一部とのこと。ロンドンはかつてローマ人によって植民市ロンディニウムとして開拓され、支配されていたのですよね。この壁は西暦180年から225年にかけて建設されたそう。古いもの好きとしてはたまらない!
ヨーマン・ウォーダーズがロンドン塔悲劇の物語を語ってくれる無料ツアーも
さてロンドン塔の外壁の周りをぐるりと歩きながらチケット売り場へ。横から見ると、古い温泉宿ばりに建て増し感がすごい。ウィリアム征服王の後、王たちによって少しずつ増築されて今の形になったのだそう。
チケットは大人34.8ポンド(約6900円。2024年7月現在)、15歳までの子どもは17.4ポンド(約3450円)。入場チケットはゴールドの箔押しで、なんだか豪華!
入場ゲートでは簡単な手荷物チェックもありました。なにせ王室所有の建造物だし、世界遺産ですからね。
中に入ると、オーディオガイドを発見。日本語も含めた多言語での解説を聞きながら回れるとのことで、うんちく大好きとしては外せないと、5ポンド(約1000円)で借りました。
実はロンドン塔の衛兵ヨーマン・ウォーダーズが無料で案内してくれるツアーが30分ごとにあるみたいでしたが、周りのペースに合わせて観るのがあまり好きじゃないので、私はオーディオガイドを選択。ヨーマン・ウォーダーズ(別名「ビフィーターズ」)はロンドン塔であった悲劇的な出来事を臨場感たっぷりに語ってくれるそうなので、英語がそれなりに聞き取れるよ!という方にはオススメです。
ちなみに「ビフィーターズ(牛肉を食べる人)」という別名の由来は、かつて給料の一部が牛肉で支払われていたからとか、王の食卓から好きなだけ牛肉を食べることを許されていたから、とか言われています。ほんまかいな。
ただ、ヨーマン・ウォーダーズになるためには22年以上軍隊に勤務して一定の階級以上であり、行いがよいと認められた軍人じゃないとダメなのだそう。ユーモアにあふれた愉快なおじちゃんという印象でしたが、実はエリート退役軍人なんですね。
ホワイト・タワーで見つかった“二人の王子”の謎
さて前置きが長くなりましたが、ロンドン塔の観光は案内表示に従ってまずは塔の外周を順番に見ていきます。ロンドン塔の広さは18エーカー、東京ドーム約1.6倍とけっこうな規模。
ロンドン塔は王の居住する宮殿であり、監獄・処刑場であったほか、銀行や造幣所、天文台でもあり、王立動物園でもあった時代も。宮殿の中でライオンや象など珍しい動物が飼われていた時代もあったなんて、別の意味での悲劇もあったんじゃないか……と想像したら震えてきます。
さてまず目に入ってくるのが、テムズ川から船で運ばれてきた罪人を受け入れる門、「Traior‘s Gate(反逆者の門)」。
かの有名なアン・ブーリンやキャサリン・ハワードもここから入場して投獄されたそうです。地獄の門ってことですね。ブルブル。
見学通路からは真横を流れるテムズ川に架けられたロンドンブリッジを目の前に臨めます。
通路を渡って、「中世の宮殿」へ。宮殿として短い期間でもここに王や王族が滞在することもあったので、王座やエドワード1世の寝室、プライベートな礼拝室なども残されていました。暖炉の横に立てかけてあった王家の楯のライオンが全員笑っているようで、しかもこういってはアレですが、小学生が描いた感があってなんだか親近感。
続いてウィリアム征服王によってロンドン塔が建設された当初からある「ホワイト・タワー」へ。塔の入り口へは木造の階段を上がっていきますが、なぜ木製かというと、敵が攻めてきた時に焼き払って入れなくするためなんだそう。そういうところ、城っぽい。
このホワイト・タワーの塔のたもとで1674年に2人の子どもの骨が見つかったという、ロンドン塔で最も有名な悲劇のエピソードがあります。
1483年、ばら戦争の真っただ中にエドワード4世の息子である12歳のエドワード5世と9歳のヨーク公リチャードが、父王の死後即位を待つ間にロンドン塔で忽然と姿を消しました。おそらくその後即位した叔父のリチャード3世によって暗殺されたのだろうとささやかれていましたが、真偽は謎のまま。それから200年近く経って発見された骸骨はおそらく二人の王子のもので間違いないだろうと推定されています(その後ウエストミンスター寺院に再埋葬)。ロンドン塔屈指の悲劇ですね。
しかしどうやってDNA鑑定もない時代に「二人のもので間違いない」と推定したんだろう……?
ホワイト・タワーの中には、主に国の武器庫として、多くの鎧兜やら大砲やら槍やらが収納されていました。
江戸時代に2代将軍徳川秀忠から贈られたという鎧兜もありました。元の持ち主が武田勝頼という説もあるそうですが、本当かな……?
どれだけの数の武器がここに保管されていたかは、入り口に展示されていた分厚いノートが物語っています。これ、何がどれだけ保管されているかを記した記録帳なのですが、4年分の記録でこの分厚さ。
ヘンリー8世やジェームズ2世の甲冑も飾られていて、体格や身長をイメージできます。
巨大な甲冑と小さな甲冑が並んで展示されているものもあって、親子で戦争に……?などと想像すると、なんだか切なくなってきます。
ロンドン塔最大の見どころ、520カラットのダイヤモンドと王冠たち
そしてロンドン塔で一番の見どころといっていいのがこれ! なぜロンドン塔が最も人気のある観光スポットなのか、その理由もこれ!「The CROWN JEWELS」!!王家の宝石コレクションです。戴冠式で使われた、あの!王冠や世界最大のダイヤモンド「カナリン」(別名アフリカの星)も、ここに飾られているのです。み、見たい……!!
残念ながらここは撮影禁止なので写真はないのですが、見たこともないような大きさの宝石がゴロゴロと、王冠に貼り付けられているではありませんか。王冠は一つのものを三種の神器的に歴代受け継がれているのかと思いきや、先日の戴冠式で使われた「帝国の王冠」以外にも、立派な王冠がいくつも飾られている……!
あああ、あれはサファイア? このバカでかいのはルビー? 周囲を彩る赤や緑や青の宝石、何でもないように飾られているけれど、1つ10カラットは超えてるよね?? この王冠一つにダイヤ何個?計何カラット? 高貴な紫のベルベットにダイヤモンドが映えまくり……!!! とまあ、鼻血が出るかと思うほどのギラギラっぷりに、大興奮!!!
じっくり見たい!と誰もが思う場所なので、混雑回避のためにメインの王冠の前はムービングウォークになっていて、まさにベルトコンベア式に運ばれていってしまいます。値段をつけられない至宝たちを、一瞬で目に焼き付ける必要があります。
アフリカの星カナリンは、即位の宝器のひとつである十字架のついた王笏にはめられていました。1661年のチャールズ2世の戴冠式のために使われて以来、すべての戴冠式で使われているそうです。まぶしすぎて何がなんだか……。530カラットですって!あまりの大きさに「本当に本物のダイヤ?」なんて不敬なことを思ってしまうほど、人知を超えた輝きを放っていました。ほかにも戴冠式など神聖な儀式で使われるのであろう黄金の食器なども展示されていて、今ゴールドは高騰しているけれどこのゴブレット一つでおいくらに……?とゴクリ。
王室パワーを存分に味わった後は、処刑場跡地、タワーグリーンへ。「9日間の女王」ジェーン・グレイやアン・ブーリンなどが断頭台の露と消えた場所ではありますが、実はロンドン塔で処刑された人数はクロムウェルなどを含めても22人と、ごく少ないそうです。
処刑台のあった場所に設置された記念碑には、処刑された人物の名前が記されていました。
その前にあるビーチャムタワーにはかつて身分の高い囚人が幽閉されていて、壁には囚人が残したたくさんのメッセージが残されていました。切ない……。
王家の栄光と裏切りの歴史が詰まったロンドン塔。じっくり見るなら午前中がオススメ
ロンドン塔はなぜ、ロンドンでも屈指の人気観光地なのか。
それは夏目漱石が「英国の歴史を煎じ詰めたもの」と表現したように、王家の光と影のすべてが凝縮された、数々の物語を持つ場所だから。
「ロンドン塔からカラスが去る時、王政も塔も崩れ落ちる」占い師がそう告げたという伝説に基づき、今も片羽根を切られたカラスが守護神として塔内で飼育されている。たとえばこんなエピソードが、人を惹きつけてやまない理由なのかもしれません。
見ごたえたっぷりのロンドン塔、私は全部回るのに3時間半かかりました。中に大きなカフェテリアもあるので、途中でランチを取ることも可能です。ロンドンに行くなら、ぜひ足を運びたい場所であることは間違いありません。じっくり見て回りたいなら、朝早めの時間がオススメです!
(文・写真/中原絵里子)