多民族国家マレーシアの首都クアラルンプール。そのKL(クアラルンプールの略)セントラル駅は市内外の観光地へのターミナル駅なのですが、実はこの周辺も魅力的な観光スポットに溢れています。現地在住の海外書き人クラブ会員、坂本博文がご案内します。
1 歴史や異文化の由来を知る:「マレーシア国立博物館・ミュージアムネガラ」
KLセントラル駅と隣接するMRT(鉄道路線)のミュージアムネガラ駅の真正面に建角がマレーシア国立博物館「ミュージアムネガラ」です。1963年完成の博物館はマレーシアの伝統的な建築様式を模した2階建てで、1階には「有史以前」と「マレー初王国」、2階には「植民地時代」と「現代のマレーシア」と名付けられたギャラリーがあり、マレーシアの歴史について知ることができます。
植民地時代を紹介するギャラリーには1942年から1945年までの日本軍による植民地支配に関する展示もありますので、マレーシアを訪れる日本人としては知っておいて損はないでしょう。
なお水曜日、金曜日、土曜日の午前10時からはおよそ1時間の無料日本語ガイドツアーもありますので、展示物に付随する英語の説明を読むのが苦手な方も安心です。
初めて訪れた土地の歴史をまず知ってから、そこの観光地を回ることで見える景色もその理解もきっと違ってくるはずです。
2 都会の憩いの場:「レイクガーデン」
マレーシア国立博物館の裏手に広がるのは、その広さが東京ドームおよそ19個分の公園、レイクガーデンです。レイクガーデンの名にもあるように、人口の湖を中心に広がる公園には様々なルートの遊歩道が張り巡らされているクアラルンプール市民の憩いの場で、週末は家族連れで、朝晩はジョギングをする人々でも賑わいます。
公園内ではマレーシア特有の植物が様々なテーマに沿って配置されており、日本では見られないような植物も見ることもできます。
3 頭の上を鳥が自由に飛び回る:「KLバードパーク」
レイクガーデンに隣接するKLバードパークは、種類で言えば200種類以上、数で言えばおよそ3000羽の鳥たちが一堂に集められた巨大なバードパークです。
マレーシアやインドネシア、フィリピンなど東南アジアの群島部にしか生息していないサイチョウが自由に飛び回る様子を見ていると、突然、園内を歩くクジャクの姿に遭遇するなど、檻越しに見るのとは全く違う体験型のバードパークです。
4 世界各国からのイスラム美術品が集まる「マレーシア・イスラム美術館」
日本人にとっては馴染みの薄いイスラム教。それを知るきっかけとしてイスラム教国家のマレーシアで、イスラム美術に触れてみるのはどうでしょうか。
KLバードパークから徒歩15分ほどのところにあるマレーシア・イスラム美術館。ここではイスラム教発祥の中東だけでなくマレーシアやインドネシアといった東南アジアやインド、中国そしてアフリカと世界各地にあるイスラム文化を絵画や織物、陶器や磁器、また建築物などを通じて知ることができる美術館です。
東京国立博物館でもここの協力のもとイスラム美術の特別企画が行われるなど、その所蔵品には定評があります。
カフェやレストランもあり、アラビア風コーヒーやミントティーを飲んで一息つくもよし、レストラン自慢の中東料理あるいはマレーシア料理でお腹を満たすのも良いでしょう。
5 インド人街「ブリックフィールズ」
マレーシア国立博物館とは反対側の出口を出ると、そこはもうインド人街「ブリックフィールズ」。元々はレンガ「ブリック」を作る工場があったことからついた地名です。
現在はその面影は残っていないものの、インド系マレーシア人が訪れるスパイスの店やサリーなどを売る店などの他、南部インド料理の店なども多数あります。本格インド料理を味わってみたい方にお勧めで、ここにある店の中には本店がインドにあるインド料理レストランもあります。
ちなみに多民族国家のマレーシアでは人口のおよそ6%を占めるインド系マレーシア人の多くは、元は英国植民地時代にゴムなどのプレンテーションでの労働力としてインド南部から強制移住させられたインド人の末裔です。
日本のインド料理といえばナンが一般的ですが、暑い南インドでは小麦は取れないので、ナンではなく米が主食です。しかも小麦を使わないのでカレー自体もサラサラです。
このサラサラのカレーをお皿代わりのバナナの葉の上に広げたご飯にかけて食べるバナナリーフカレーはこのインド人街でぜひ味わってもらいたい一品。
ご飯では重いという方は、米粉を使った薄い生地のクレープ、トーセー(インドではドーサと呼ばれています)にカレー風味のじゃがいもなどを包んだトーセーマサラと紅茶のセットでインドを味わってみてはいかがでしょうか。
6 過去と現在が共存する場所「チャイナタウン」
KLセントラルからは徒歩圏ではありませんが、MRTに乗って一駅の「パサル・セニ」駅で降りるとそこには中国人街「チャイナタウン」があります。
隣国のタイやインドネシアでは、中華系の人々は特定の地域に集まって住んでいることが多いですが、マレーシアの中華系の人々はインド系やマレー系のマレーシア人などと混在して住んでいます。
このためクアラルンプールのチャイナタウンはやや観光地化していますが、それでも英国の統治下だった100年ほど前に建てられた商店街には昔ながらの食品店や雑貨店などの他、バックパッカー向けのホステルなどがあります。
また近年は古い佇まいの外装を生かしながら、内装はおしゃれなカフェも次々と開店し、昼夜を問わず賑やかな場所です。
もしチャイナタウンでお腹が空いたら、中華系イスラム教徒の店で提供されるミー・タリクを食べてみてはどうでしょう。ミーは「麺」、タリクは「引く」という意味のマレーシア語で、生地を引っ張って伸ばし、麺にすることからこの名で呼ばれます。別名の「蘭州拉麺」と言えばピンとくる方がいるかも知れません。
スルタン通り(マレーシア語ではジャラン・スルタン)にあるこの店は看板メニューのミー・タリクの他、羊肉の串焼きや豚肉を使わない餃子などもお勧めです。
また、もっとマレーシアらしいものがお望みなら、マドラスレーンという通りにあるカリー・ミーの屋台はどうでしょう。カリーとはカレーのことですが、ココナツミルクをふんだんに使った濃厚なカレースープと食べる麺は、日本では経験できない味。いんげんやナス、湯葉などトッピングを指差しで頼めるので、注文も難しくはありません。
以上KLセントラル駅周辺のおすすめ観光スポットをご紹介しました。国立博物館からレイクガーデン、KLバードバークからイスラム美術館までは連続して歩ける位置にありますので、散策しながら歩かれるにはお勧めです。
地元の食事を食べてみたいという方ならインド人街ブリック・フィーズルで朝食、中国人街チャイナタウンで昼食というのも良いかも知れません。
日本では経験できない様々な異文化が体験できるマレーシア観光の第一歩を、多様性が凝縮されたKLセントラルとその周辺からスタートされてみてはどうでしょうか
(文・写真 坂本博文)