ピコ太郎の「PPAP」、おもしろいと思いますか?
「全然」という人もいれば、「すごくおもしろい」という人もいれば、「最初わからなかったけどジワジワくる」という人も、反応は様々ですよね。
こんにちは。海外書き人クラブ所属、オーストラリア在住ライターの柳沢有紀夫です。
今日はピコ太郎の「PPAP」がなぜ海外でウケたのか、BABY METALやきゃりーぱみゅぱみゅや「江南スタイル」のPSYとの類似性などを交えながら、解説したいと思います。
えっ、BABY METALときゃりーぱみゅぱみゅ、ピコ太郎や PSYと全然別じゃん!
という方もいらっしゃると思いますが、読んでいただければ納得されると自信を持っております。
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1 ナンセンスギャグを音楽にしたPPAP
さて、冒頭の「ピコ太郎のPPAP、おもしろいと思いますか?」という話にもどりましょう。
「おもしろい」と思うのは小中学生、「おもしろさがわからない」というのは大人。アンケートを取ったわけではないのですが、明らかにこういう傾向はあるでしょう。
オーストラリアでも、私がいっしょに草サッカーをやっている中学生のガキンチョをどもなんかはハーフタイムの休憩中に突然歌いだしたりしますが、同じようなことをする大人はいままで見たことがありません。
子どもにはウケて、大人にはあまりウケない。じつはこれって「流行語」になる「一発芸」と同じなんですね。
8.6秒バズーカーの「ラッスンゴレライ」、日本エレキテル連合の「ダメよ〜、ダメダメ」、小島よしおの「ハイ、おっぱっぴー」、エド・はるみの「グ~」、世界のナベアツの「OMORO!(オモロー)」、レイザーラモンHGの」「フォ~」。
つまり「ナンセンスギャグ」なんですね。前後の脈略がほとんどない。
小島よしおの「そんなの関係ねぇ!」をここに入れなかったのは、それなりの「前ふり」があって、じつは「ナンセンスギャグ」じゃないからです。とはいえ、当時の小学生たちは前ふりをとって「そんなの関係ねぇ!」だけを真似をしていたので、ナンセンスといえばナンセンスなのですが。
で、このナンセンスギャグを音楽に乗せてやったのがピコ太郎。これが欧米では前例がなくて(あたりまえですよね。「これはペンです」って歌詞で欧米人は音楽作ろうと思わないもの)、逆に目立ってウケたわけです。
2 PSYも路線は同じ「ナンセンスギャグ」
でもこの「ナンセンスギャグ音楽」をピコ太郎よりも先に手掛けて、世界的ヒットを飛ばした先達がいました。そう、「江南スタイル」のPSYです。
顔パンパンのおデブちゃん体型。なのに、オールバックでサングラスをつけて、服装もカッコつけている。そして予想外に見せるキレキレのダンス。それが「妙におかしい」とウケたのですね。
3 アンバランスが新鮮なBABY METAL
BABY METALがウケたのは、「ナンセンスギャグ」とは無関係です、もちろん。ただ彼女たちも欧米人にとっては無茶苦茶「新鮮」だったのです。
それまでのヘビーメタルバンドというと、男が中心で、ヴィジュアル的には荒々しく、どこか退廃的というか悪魔崇拝的な匂いも漂わせるものがほとんど。そこにデビュー当時は十代前半の華奢でかわいい女の子たちが、殴りこんでいったわけです。
4 音楽に「絵本」を持ち込んだきゃりーぱみゅぱみゅ
きゃりーぱみゅぱみゅは、日本風の「かわいい」を前面に出したのが、うまい差別化になっています。
レディー・ガガにしろ、テイラー・スウィフトにしろ、欧米では女性歌手も「かっこいい路線」が主流(テイラー・スウィフトは顔自体は「かわいい」と思いますが)。古くはマドンナやシンディー・ローパーも「かっこいい」プロモーションビデオ(ミュージックビデオ)を発表していました。
そこに「原宿風」のかわいさというか、欧米人から見ると「ヘンゼルとグレーテル」の「 お菓子の家」みたいな背景で、「絵本」に出てくるようなかわいらしい女の子が歌って踊る。それがとても新鮮だったのですね。
デビュー作である「PONPONPON 」で出てきた脳みその模型など典型的なのですが、「ほんの少し不気味なものを混ぜる」のも、まさに欧米の「童話」風の味付けです。
5 AKB48的グループが欧米ではブレイクしない理由
AKB48はどうか? ああいう集団で歌って踊るグループっていないじゃないか? でも上海やジャカルタにグループはできても欧米で人気という話は聞かないですよね。
二つの理由あると思います。
一つは「歌って踊る」はいないけど、「集団で踊る」というのは昔からあったのですね。有名なフレンチカンカンがその一例です。あと近年大阪の某テーマパークがハロウィンイベントの一環として「みんなで踊ろう」と取り上げているマイケルジャクソンの「スリラー」。あれなんかも、「集団で踊る」の典型です。同じようなものは、ミュージックビデオやステージでしょっちゅう見ることができます。しかもプロのダンサーたち。AKB48のメンバーたちのキレキレのダンスでも「プロを凌駕している」とはさすがに言えないと思います。
理由二つめ。日本でAKB48が人気な理由は、「クラス(または「学年」「学校」)で、どの子がかわいいと評する楽しさ」みたいに言われることがあります。私はむしろ「男子校の生徒が、隣の女子高のどの子がかわいいと言い合う楽しみ」のほうが、実情に近いと思いますが。
つまり「高嶺の花ともいえるけれども、まったく手の届かないところにいるわけでもない」という微妙なあこがれポジションにいる女の子を追いかけて喜ぶという感じです。この感覚事態は欧米人にもわからないものではないでしょう。
だけど致命的な部分があるんです。それは……。「欧米人にはアジア人の顔の違いは理解しにくい」ということです。つまりAKB48のメンバーが「みんな同じに見えてしまう」は言い過ぎにしても、「一人ひとりのメンバーの違いがよくわからない」のです。違いがわからないのでは、ファンになりようもないのです。
AKB48がアジアの国々では人気だったり、同じスタイルのグループが上海とジャカルタでつくられるのは、アジア人である彼女たちの一人ひとりの顔の違いが、同じアジア人からはわかりやすいからです。
6 欧米で人気を得るのに一番大切なこと
それは「欧米のものまね」はしないことです。いかにK-POPのスターが欧米風のカッコよさ(足が長くて筋肉質で)を追求しようとも、欧米ではウケません。そういうのは「本家本元」がいますから。「コピー」が入っていく余地はありません。
ただK-POPはアジアでは人気があります。理由は「アジア人でも欧米風のカッコよさが出せる」というのが、新鮮だったからです。
話を海外進出する日本人から、「日本製品」に広げてみましょう。
よく「日本人はモノマネは得意だが、オリジナルな発明はしない」と言われます。ただ、これは半分あっていて、半分間違っています。
たとえばソニーのウォークマン。かつてでかいラジカセしかなかった時代に、「ポケットに入れて持ち運べたら便利じゃん」と発想した。その後のiPodや、「スマホに音楽を入れる」という行動のさきがけになりました。確かに「テープレコーダーそのもの」の発明はしていませんが、「音楽を持ち運ぶ」という行動を発明したのです。
最近では軽自動車~排気量1.5リットルくらいまでのミニトールワゴン。「自動車内で快適な空間を得るためにはそれなりの全幅と全長が必要」という常識をあざ笑うかのように、「背を高くすればいいじゃん」という何とも単純明快かつコペルニクス的な代替案を提示しました。「全高で居住性を稼ぐ」。これもまた一つの発明です。
ところがこの小さなトールワゴンたち、海外ではあまり販売していないようです。少なくともオーストラリアでは見ないです。アメリカ同様、「国土が広い」というイメージがあるのかもしれませんが、都市部の自動車密度は日本と変わりません。小さくすいすい走れて、駐車もしやすいミニトールワゴンの需要は充分あると思うのですが……。
あれも携帯同様、「ガラパゴス」だという判断なんですかねえ。
今回の【まとめ】はとてもシンブルです。
【まとめ】 欧米のマネをしてもマネでしかないから人気にはならない。「サムシング・オリジナル」を。
【文:海外書き人クラブ 柳沢有紀夫】
(海外20ヵ国のネタを集めた本の告知が一番下にあります。ぜひご覧ください)
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