ただのデッサンまたは殴り書きにすぎない草稿を、一つの「作品」に昇華させることができる「推敲」。第3回の今回は最も大変な「文中」の推敲です。
こんにちは。海外書き人クラブお世話係の柳沢有紀夫です。
なぜ「文中」の推敲が大変かというと、注意が散漫になるからです。というのは前回お伝えした「文頭」と「文末」は、一つの文にそれぞれ1ヵ所しかありません。まあ「文中」も1ヵ所と言えるのですが、なんといっても「文頭」と「文末」と比べて長いですよね。だから推敲にも時間がかかります。
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ポイント1 読点(「、」)を減らす
とにかく例を挙げれば一目瞭然です。
でも、私は、こんなふうになるなんて、そのときは、思ってもいませんでした。
これではまるで小学一年生の教科書です。
ポイント2 指示代名詞は減らす
いわゆる「こそあど言葉」です。これらを減らしていけば文章はシャープになります。
ただし「こそあど」のうちの「ど」、つまり「どの」とか「どうしたら」は気にする必要はありません。
また「こそあど言葉」は文章の出だしに使うと、効果的になることもあります。
(例1) あのころに帰りたい。人は誰でもそう思うことがある。
(例2) こんなキモチは初めてだ。
これらがなぜ効果的かというと、まさに文章の最初にあってこの時点では「指示代名詞のくせに何も指示していないから」です。だから読者は「あのころっていつのことだろう」とか「こんなキモチってどんなキモチ?」と妙に気になるのです。
ポイント3 漢字はひらく
漢字が多い文章は読みにくいばかりか、ジジ臭く・ババ臭く感じられます。試しにお手元にある最近の若い作家が書いた大衆小説やラノベを見てみてください。たいていの場合漢字を減らそうと努力していることがわかると思います(ただし純文学系の作家の場合、わざと小難しい表現を使うこともあるので、話は別です)。
有る → ある
無い → ない
分かる → わかる
下さい → ください
出来る → できる
殆ど → ほとんど
〜する時 → 〜すると
〜した所 → 〜したところ
溢れる → あふれる
ポイント4 カギカッコをうまく使う
読者に注目してほしい言葉やキーワード、新語や著者の造語をカギカッコでくくって強調するのも一つの手です。読者にアンダーラインを引いてもらいたいところを、こちらからカギカッコで強調する。ある意味で「読者フレンドリー」な手法ともいえますが、これにより自分が特に伝えたい点をクリアにできます。つまり読者のためであることは、自分のためでもあるのです。
文章にメリハリがついて見えるという効果がありますね。
彼自身は独自の理論と称するが、結局は根性論の域を出ていない。
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彼自身は「独自の理論」と称するが、結局は「根性論」の域を出ていない。
ポイント5 太字や大きな文字を用いる
カギカッコと同様、太字で強調するという手もあります。まだ媒体は限定されますが、級数の大きな文字を用いるという手もあります。
ポイント6 カタカナも効果的に使おう
そもそもカタカナは外来語や擬音語・擬態語(オノマトペ)を表すときに用いられる文字ですが、それ以外にも強調したり、ある種のニュアンスをこめたいときに使われています。たとえば以下のような場合です。
飲んだあとのシメ
マメな人
キモチ
ビックリ
ウソ
ダメな人
デキる人
ボケとツッコミ
イマイチ
カンタン
ジブン(関西弁で「キミ」という意味で使うときの)
オトコ、オンナ
カラダ
モノとサービス
他にもいろいろな言葉で使われているので、誰かの文章を読んでいて、「あっ、これいいな」と思うものがあったらメモって置くのもいいかもしれません。
ただしどの言葉でもカタカナにしていいというものでもありません。たとえば次のような表現でカタカナを用いた場合は、妙にジジババ臭い文章になります。
どうしていいかワカラナイ。
がんばってみたけどヤッパリダメダ。
二つめの例は「やっぱりダメだ」と「ダメ」だけカッコにするのが良いでしょう。
ポイント7 「この言葉はこの文章の読者が理解できるか」を常に考える
つまり「読者がわからない言葉は使わない」ということです。ただプロでもやってしまう人が結構います。特に業界誌とか海外の邦字紙などでの執筆経験が長い人にそういう傾向が……。その媒体での常識がしみついてしまっているのでしょう。
たとえばオーストラリアのある街にあるカフェの話を書いてきて、最後に「ちなみにここのパブロバはローカルに大人気です。」とあったとします。これはオーストラリア居住者に対する記事なら問題はありません。でも日本に住む人に対しては書いてはいけない文です。
まず「パブロバ」が何かわかりません。オーストラリアやニュージーランドでは知らない人がいないお菓子ですが、日本では知名度はほぼゼロです。
不親切な文は読者をいらだたせます。いちいち検索するのも面倒だからです。こういうのが続くと、読者は途中で読むのをやめてしまいます。
仮に読者がものすごく忍耐強くて、パブロバの意味を調べてくれたとしましょう。それでも「ちなみにここのパブロバはローカルに大人気です。」は意味がよくわからない文章です。「ここのパブロバとかいうお菓子は……シドニーとかメルボルンといった都会ではなくて田舎で人気なのか。けど……なんでこんなことわざわざ書くんだ? 都会で人気ならまだしも田舎で人気じゃセールスポイントにならないだろ?」と、日本に住む読者の頭の中ははてなマークが飽和状態になっているはずです。
ちなみにこの場合の「ローカル」とは「現地の人」という意味です。
その他、特に海外在住の人が使いがちな「日本に住む人は理解できない場合が多い言葉」と「その言い換え例」を挙げておきます。
シグニチャー → 看板メニュー
ヌテラ → 「ヘーゼルナッツのペースト」とか
シチャラーソース → 「唐辛子ベースの辛口ソース」
カウチ → ソファー
チップス → いわゆる「ポテトチップス」だけでなく、「フライドポテト」のことも国によってはこう呼びます。そして後者の意味であれば、日本語では「フライドポテト」と書くべきです。
フィッシュ&チップス → フィッシュ&チップス(魚のフライとフライドポテトのこと。イギリスの伝統的ファーストフード)
以上は外国在住ライターに顕著な例ですが、「一般の人たちにわからない言葉を使ってしまう」人はかなりいます。特に自分の趣味・詳しいジャンルに関しては、そういう傾向になりがちです。人間はそもそも客観的になりにくいものですし、特に好きな内容に関して書いていれば筆も乗ってきます。
だから書き終えてからぜひチェックしてください。
もちろん広く一般向けではなく、ある趣味をもった特定の読者限定の記事やブログであればこの限りではありません。一般の人がわからない言葉だろうが用法だろうが使い放題です。
……と言いたいところですが、ここでさらに気をつけていただきたいのが、「読者の理解度」。同じアニメ好きに対して書く記事でも、オタクと呼べるレベルに達している人に対するのとそうでない人も含む場合では自ずと変わってきます。F1などのモーターレースファンでも「走っている姿がかっこいいから好き」という人もいれば「メカニックなどまでマニアックに好き」という人もいます。当然前者に対して後者的なスタンスで書いても引かれるだけです。
文章は読者のために書くもの。だから「読者が理解できるか」を常に確認しながら推敲してください。
物書きは「サービス業」です。
【文:海外書き人クラブ 柳沢有紀夫】
(「海外在住ライターを使ってみたい」と思われている方。「海外在住ライターになりたいと思われている方。耳寄りな情報があります。ぜひこのページの下のほうまでご覧ください)
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