はじめまして。海外在住28年の海外書き人クラブ会員ケリー狩野智映です。2020年10月より、夫の故郷スコットランドのハイランド地方に居を構えています。そこで今回は、スコットランドで「デザートの王様」とも呼ばれている「Cranachan(クラナカン)」を紹介します。
ところで、「スコットランドのスイーツ」と言われて、何が思い浮かびますか?あまりピンとこない方も多いのではないでしょうか? ですが、英国土産の定番アイテム的存在になっているショートブレッドは、実はスコットランドの伝統的なスイーツなんです。赤いタータンチェックのボックスが特徴の、ウォーカーズ社(Walkers)のものが特に有名でしょう。
サクサクとした食感とバターの風味が病みつきになるショートブレッドは、スコットランドの一般的な家庭でもよく手作りされています。ただ、使用するバターと砂糖の量にはギョッとさせられます。
私もショートブレッドを手作りしたことは何度かありますが、今回は日本ではあまり知られていないスコットランドの国民的伝統スイーツ「Cranachan(クラナカン)」を初めて自作してみました!
Cranachanとは?
「Cranachan」は、できるだけ原語発音に近い日本語表記をすると「クラナカン」。スコットランド英語で「ch」は日本語の「ク」と「ハ」の中間のような音になります。そこで「chan」は「チャン」ではなく「カン」と表記していますが、スコットランド人の発音では「ハン」に聞こえることが多いかも。この名称は、18世紀中盤に禁止されるまでスコットランドの主流言語だったゲール語が語源で、「かくはん、かく乳」という意味だそうです。
もともとは、ラズベリーが旬の6月に収穫祭のノリで作られていたもので、見た目はアイスクリームが入っていないラズベリーサンデーのよう。ぱぱっと手早く作れ、日本でも比較的簡単に再現できると思います。
メイン具材は、ラズベリー、ダブルクリーム(脂肪分の高い生クリーム)、オートミール、スコッチウイスキーと蜂蜜です。地方や家庭によってレシピに若干バリエーションがありますが、ここでは知り合いの初老の女性が教えてくれた「スタンダード」なレシピを使いました。
具材(6人分)
- 新鮮なラズベリー 250g
- オートミール(スチールカットが好ましいそうです) 55g
- ダブルクリーム(生クリームでも大丈夫だと思います) 475g
- 良質のスコッチモルトウイスキー 大さじ3
- 蜂蜜(液状のもの) 大さじ2
盛り付けの器
- サンデー/パフェ用のガラスの器、またはウイスキータンブラー(ガラス製)
もらったレシピにはラズベリーもダブルクリームもオートミールも蜂蜜も、「スコットランド産のもの」と書かれています。確かにラズベリーは、イチゴもそうですが、スコットランド産のものは酸味と甘味のバランスが絶妙の、みずみずしい逸品です! 同じ品種でも、他の産地のものとは一線を画しています。
ナショナリストな主張をしているわけではなく、実際にスコットランド産のラズベリーとイチゴは、英国の高級レストラン業界でも引っ張りダコだと聞きました。スコットランド特有の天候と地質と水質が要因なのでしょうか。
もちろんスコットランド産が手に入らない場所では、入手可能なもので代替してください。私自身、スコットランド在住でありながらも、残念ながらラズベリーはまだまだ季節ではないため、今回は今の時期にスーパーで手に入るモロッコ産を使いました。ですが他の具材はあくまでもスコットランド産。蜂蜜はネッシーで名高いネス湖のほとりにある養蜂場のもです。
ここで絶対に妥協してはならない具材が、スコッチモルトウイスキーです! ウイスキーならなんでもOKなのではなく、必ずスコットランド産のウイスキー=スコッチを使ってください。シングルモルトでなくても構いませんが、ブレンドを使う場合はグレーンが混じっていないモルトブレンドを選びましょう。
私は「地元産」にこだわり、我が家から車で15分弱のミュアー・オブ・オードという小さな町にあるグレンオード蒸留所の「シングルトン・オブ・グレンオード12年」を使いました。シングルトンはウイスキー業界の超大手ディアジオ社のブランドのひとつで、グレンオード蒸留所産のものはアジア市場輸出用であるため、欧州では蒸留所直販以外ではなかなか手に入りませんが、日本では手に入るはずです。
欧州市場で販売されているシングルトンは、スペイサイドのダフタウン蒸留所産のものです。シトラス系のフルーティーさと、ほのかな蜂蜜の味わいが心地よい、素晴らしいシングルモルトウイスキーです!
作り方はすこぶる簡単!
まずは、オートミールをフライパンで炒ります。ゴマを炒るのと同じ要領で、焦がさないように気を付けながら、ほんのり小麦色になって香ばしい香りがするまで中火で炒ります。好みによって、カリカリになるまで炒ってもいいでしょう。ちなみは夫はカリカリが好みです。好みの状態になったら火から下ろして粗熱をとります。
次に、ラズベリーをつぶします。フードプロセッサーを使ってもいいみたいですが、フォークを使えば手軽につぶせます。分量のラズベリーをすべてつぶすのではなく、最後の飾り用に少し残しておきましょう。
次はダブルクリームにスコッチモルトウイスキーを入れて、泡立て器で泡立てます。電動泡立て器を使うのがベストですが、ダブルクリームは気合を入れて泡立てすぎると分離してしまうので要注意です。
ダブルクリームがほどよい固さに泡立ったら、炒りオートミールと蜂蜜を、ゴムベラでクリームを切り込むようにさっくり混ぜます。炒りオートミールも、分量すべてをクリームに混ぜるのではなく、最後のトッピング用に少量とり分けておくといいでしょう。
盛り付けはレイヤリング
さあ、今度は盛り付けです。私は今回、大きめのウイスキータンブラーを使いました。我が家は夫と小学生の娘と私の3人家族ですが、この日は夫の妹が夕ご飯を食べに来ることになっていたので、6人分の分量で作ったクラナカンを4人で分けました。
まず、ウイスキークリームの層をタンブラーに入れ、その上につぶしラズベリーの層、そして再びウイスキークリームの層という具合に繰り返し、盛り付けの器の大きさと給仕する人数に応じて層の数を調整してください。私はウイスキークリーム+つぶしラズベリー+ウイスキークリームの3層構造にしました。
最後の仕上げに、つぶさずに残しておいたラズベリーをそれぞれのクラナカンに3個ずつ飾り付け、とり分けしておいた炒りオートミールを少量ふりかけました。出来上がりはこんな感じです。
大人のスイーツ
お味はというと、ウイスキークリームのこってり感、ラズベリーのシャープな甘酸っぱさ、蜂蜜のほのかな甘みが奏でるハーモニーは、甘すぎず、こってりすぎず、思ったより軽やかな大人のスイーツという印象でした。ウイスキーの風味はそれほど強くないので、ウイスキーを飲まない人にもウケるのではないでしょうか。
夫の妹は、「お世辞じゃなくて、私が今まで食べた中で最高のクラナカン!」とベタ褒めしてくれました! 一方、年季の入ったウイスキー愛好家の夫と私にとっては、ウイスキーの味わいが少し物足りませんでした。
次回はウイスキーの分量を大さじ5ぐらいにグレードアップしようと思います。さらに、他の蒸留所の銘柄や、異なるウッドフィ二ッシュのスコッチモルトウイスキーを使って、風味の微妙な違いを食べ比べしてみたいです!
他に気が付いた点は、オートミールはカリッとなるまで炒っても、ウイスキークリームに混ぜて盛り付けしてからしばらく放置しておくと、水分を吸収して少しソフトになってしまうので、カリカリがお好みの方は、作り置きせずに食べる直前に作る方がお望みの食感を楽しめると思います。甘党の方は、最後の仕上げの飾り付けに、液状蜂蜜を少々プラスして甘みをチューンアップしてみてはいかがでしょうか?
ちなみに、小学生の娘はラズベリーが大好きなのですが、ウイスキーの味わいが彼女にはダメだったようで、ひと口食べた瞬間、顔をしかめて無言で立ち去りました……。やっぱり大人のスイーツですね。本当に簡単に作れて美味しいので、ぜひお試しください!
(写真・文 ケリー狩野智映)