こんにちは。海外書き人クラブ会員、南アフリカ在住のノンフィクションライターのバンベニ桃です。
南アフリカの先住民であるコサ族。私はこのコサ族に2010年から嫁ぎ、彼らの文化を学んでいます。彼らの暮らしは先祖と家畜と共にあります。今回はコサ族の引越しの儀式「Ukuvulu’mzi ウクヴルムジ(直訳すると“家を開く”)」を紹介したいと思います。日本人の感覚とはちょっと違った引越しの考え方は、先祖と共に暮らすコサ族特有です。
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1.「ご先祖様」に引越しを知らせる儀式
コサ族は成人し、家を建てる財力がつくと家を建て本家から独立します。また結婚を機に両親に家を建ててもらい引っ越すというケースもあります。近年では仕事を求めて都市へ移動する人たちもいますので、一概には言えませんが、大抵は同じ村や、周辺の村に引っ越すことが伝統的な引越しです。この日も周辺の村への引越しでした。
コサ族は家に先祖が宿っていると信じています。新しく建てた家や、引っ越した家はまだ先祖に知られていないので、儀式でその家を紹介し、先祖に宿ってもらう必要があるのです。もしこの儀式をしないと、先祖に守ってもらえず、思わぬ災難に見舞われると信じられています。
主に先祖と交信することができるのはロンダと呼ばれるアフリカ伝統家屋と、家畜小屋です。ロンダの中に藁を敷き、儀式の間は先祖と繋がるために、みんな靴を履きません。
2.ご先祖様に捧げる「お酒」
儀式は早朝4時から始まります。本家へ主な家族が集まり、先祖を呼び、そこから引っ越した先に移動します。そして朝10時頃から徐々に親戚や訪問客が増え儀式は一気に盛大になります。
先祖を呼び出す時に必要とされるのが、コサ族の伝統のお酒はNqonbothi(ンコンボチ)です。トウモロコシ粉を使って作ったお酒で、7日間かけて発酵させます。儀式の1週間前からすでに準備が始まるというわけです。
このお酒はコサ族のあらゆる儀式の時に必要となります。これは今回の引越しの儀式で用意されたンコンボチ。引越しの儀式はコサ族の儀式の中でも割と大きな儀式なので、たくさんの親戚、訪問客が来ます。そのため、たくさんのンコンボチを作ってもてなします。この味が良いと、訪問客は喜びます。
ンコンボチは発酵製品なので、プクプクと発泡します。近づいてみるとこんなに発酵しているのがわかります。
味はトロッとしていて、少し酸味があり、アルコール度もそんなに高くなく、飲みやすい味です。「ンコンボチを飲んで酔っ払っても、ハッピーなるだけさ。ご先祖様と一緒だからね」とコサ族は言います。
3.先祖に捧げられる「ヤギ」
この儀式に捧げられるのは、ンコンボチだけではありません。コサ族の儀式の多くは家畜を屠りますが、今回の引越しの儀式ではヤギ肉が先祖に捧げられました。私は親戚だったので、早朝の儀式には出席できなかったのですが、出席者に聞くと、本家でヤギを屠り、もも肉を食べることで、先祖を呼び出していたそうです。
引越し先の家では牛を一頭、ヤギをさらにもう一頭、羊三頭、鶏四羽が屠られました。これらは儀式の訪問客のもてなしです。コサ料理のおご馳走に肉は欠かせません。それも新鮮な肉でなければなりません。
この日初めて生肉を塩で食べている人を見ました。生肉が好きな人もいるそうです。もちろんとても新鮮なお肉です。
4.「親戚」や「訪問客」を呼び盛大に行う
引越しの儀式に欠かせないのは、訪問客と親戚の存在。コサ族の文化では長老だけではなく、一人一人がそこに存在していることが大切だと考えられています。ですから赤ん坊だとしても、そこにいることに重要な意味を持ち、誰もが赤ん坊や子ども一人一人と挨拶を交わします。
訪問客は男性と女性で完全に分かれます。もう一つの先祖が宿ると信じられている家畜小屋に男性は集まります。ここは女禁です。真ん中には大きな牛が開かれ、訪問した人に切り分け、焼肉を作り迎えます。
5.コサ族のママたちの「おいしい手作り料理」
最後に欠かせないのはコサ族のママたちによる伝統コサ料理。私もムチャガジ(コサ語で嫁)なので、この輪にしっかり入って働きます。人の儀式に出席して仕事を一緒に行うことが、コサ族の信頼の証です。そうすることで、自分が儀式を開く時に、親戚などが訪れて助けてくれるのです。日本の伝統的な暮らしに似ていますね。
料理はすべて薪調理となります。放牧で育てた新鮮なオーガニック肉とトランスカイに住むコサ族の主食ムショー(トウモロコシと豆を一緒に炊いたもの)と野菜を一緒にいただきます。そのお味は最高!
ママたちが来ているのはシュウェシュウェ(スカート部分)と呼ばれるコサ族の伝統衣装。頭と腰と片方の肩を布で隠し、エプロンをつけます。これがコサ族の既婚女性の儀式の正装です。
この日、この引越しの儀式にはたくさんの人たちが集まりました。みんな裸足で大地を踏みしめ、楽しいムードが漂っていました。きっとご先祖様もこの家に宿り、この家族を守っていくことでしょう。
【文:海外書き人クラブ バンベニ桃】
(「海外在住ライターを使ってみたい」と思われている方。「海外在住ライターになりたいと思われている方。耳寄りな情報があります。ぜひこのページの下のほうまでご覧ください)
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