新型コロナウイルス関連肺炎は、台湾では「武漢肺炎」という通称で連日報道されていますが、台湾で見られる日本のニュースと並行して見ていると、日本と台湾ではどこか温度差を感じずにいられません。
海外書き人クラブ会員で台湾在住の小川聖市です。今回は、私が台湾で体験した感染対策を紹介し、日本との違いや違和感について、述べていきたいと思います。
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1 いつもの日常だった旧正月休み前〜期間中
台湾では旧暦の大晦日と元日を軸に、大体6〜7日の連休を設けますが、今年は1月23〜29日。連休を迎える前から世界各地で感染者情報が出始めていたこともあり、政府が1月20日に「中央流行疫情指揮中心(直訳:感染症対策中央指揮センター、以下:中央指揮センター)を立ち上げ、現在も情報の収集、患者の掌握などに当たり、予防対策の啓発を行っています。
しかし、中央指揮センターの担当者の休暇返上の努力をよそに、春節連休期間中に感染者数は増加。1月28日には台湾の自宅で感染した人が出るなど、事態が深刻化していきました。
その一方で、私は旧正月の連休も帰国せず、台湾に留まりました。
23日に年末の雰囲気漂う迪化街の年貨大街、旧暦の元日に当たる1月25日に蔡英文総統(IMG_3414.jpg)、26日は柯文哲台北市長の寺院巡りの様子を見に行き、のんびり過ごしていました。
ただ、今振り返ると、移動の車中は、いつもと比べマスクを着用している人が若干多い感じでした。
27、28日は自宅周辺を散歩する感じの外出でしたが、27日に台湾系ドラッグストアチェーン店の前を通りかかった際、「マスク売り切れ」の張り紙が出ていました。その当時は「あ、そうなんだ」程度でしたが……連休最後の1月29日は、その日から開院(医師の応診を除く)している台北市内の理学療法科の病院へ治療に行きましたが、そこでの経験がこれから続く驚きの始まりでした。
2 「え、うそ…」 病院で経験した対策
病院の受付ですぐ言われたのは、
「(病院の)中へ入る際は必ずマスクを着用してください」
の一言。私は訳が分からず、言葉が出なかったのですが、受付の方は
「現在、病院内ではマスクの着用が義務付けられております。院内感染の恐れがありますので、着用してください」
と続けました。翌30日もマスク非着用で行ったら、当然の如く前日と同じ注意を受けました。それでも治療は受けられましたが、中にいる人たちを見たら二日とも全員マスク姿。マスク非着用は私一人だけ。受付の方にも何度も注意され、肩身の狭い思いをしました。
後日、病院の受付には、法的根拠を示す衛生福利部疾病管制署からのFAQが出ていました。
それを読み、自分でも調べてみたら、傳染病防治法(日本の『感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律』に相当)第36条に、
感染症の流行もしくはその恐れがあるとき、政府機関が定める検査、治療、予防接種、その他検疫措置に応じなければならない
*筆者直訳
とあり、それに応じない場合は傳染病防治法70条の罰則規定により3,000元以上(約1万958円)1万5000元(約5万4788円)以下の罰金を科すことができる、とありました。実際、高雄市の医院で注意を受けた男性が、マスクの非着用を注意した病院の関係者に対し、拒否しただけでなく暴言を吐いたため、罰金を科せられる事例があり、病院の受付にも、このニュースをプリントしたものが貼られていました。
後日、衛生福利部疾病管制署のホームページを検索したら、1月27日付で院内感染対策として、マスクを着用するよう通達が出ていたことを知り、医院での対応と姿勢に納得。今は話をしっかり聞き、協力するようにしています。
病院に貼ってあった張り紙の一つに、医療機関で診察を受ける際、発病前14日以内の渡航先、従事した職務、接触に関する情報(人が多く集まるところに行ったか否か。行った場合、どのような人がいて、どのような場所かなど)を申告するよう、促すものがありました。これも、虚偽の申告をしたり、違反した場合は、傳染病防治法第69条により10,000以上、150,000元(約3万6525〜54万7878円)以下の罰金が科されます。
3 マスクの大規模欠品対策
日本でも起きているマスクの大規模な欠品状態ですが、台湾も例外ではありません。前記しましたが、1月27日の時点で、近所の台湾系ドラッグストアチェーン店の店頭に「マスク売り切れ」の張り紙が出ていました。
この翌日には張り紙がなくなっていたので、一時的なものと見ていたのですが、これがその後のマスクの大規模欠品状態を生む予告だったとは思ってもいませんでした。
旧正月の連休でマスクの製造工場も稼働していないので、休み明けにマスクの欠品がさらに進み、どこのお店に行っても「マスク売り切れ」の張り紙。29日以降は、これに消毒用のアルコール、ハンドサニタイザーも加わりました。
これを受け、政府は市場への安定供給を図るため、連休明け早々にマスクの一括購入を行い、全台湾に流通させる対策をとりました。価格も、最初は1枚8元(約30円。2月1日から1枚6元)で一人3枚まで購入可能としましたが、テレビのニュースなどによると台北市内のコンビニでは販売を始めて10〜15分で売り切れになったそうで、欠品状態は続いたままでした。
そこで、政府は広く多くの人に行きわたるよう、2月6日から健康保険証を提示しないと購入できない実名による販売方式に切り替えました。その方法は、
・販売は全台湾6,505軒の健康保険特約薬局のみ(薬局が近くにない地域は衛生所で対応)
・価格は2枚10元(約37円、1枚5元)
・一人2枚まで購入可能
・購入後7日以内の再購入は不可
・身分証番号の下一ケタが、奇数は月水金、偶数(0はこちら)は火木土に購入可能。日曜日はこの限りではないが、薬局の営業日に準ずる
・代理購入は可能だが健康保険証1人分とし、購入規則は上記に準ずる
・児童用のマスクは、12歳以下の健康保険証でのみ購入可能
・数量は各薬局に成人用200枚、児童用50枚で、郵便による配送を行う
台湾に住む外国人の場合、健康保険証を所持している人はそれで(ただし居留証は必携)で、違う人は居留証か出入国許可証で購入可能で、パスポートでは不可です。
保険証番号(居留証番号でもあります)、居留証か出入国許可証の番号の下一ケタが奇数は月水金、偶数は火木土、日曜日はこの限りではなく、規則も台湾人と同じです。
私は番号が奇数なので、購入可能日初日の2月7日に台北市内の薬局を数件回ってみましたが、どの店頭にも「マスク売り切れ」の文字が並んでいて、早い時間に並ぶ必要があることを痛感しました。
4 衛生管理の洗礼を受けた台北国際マンガ・アニメフェイスティバル
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、様々なイベントが順延、もしくは中止になったものがありました。私が取材予定だったものでは、2月4〜9日に開催予定の台北国際書籍展が5月、2月6〜9日に開催予定の台北国際ゲームショーも夏季(期日未定)に順延になりました。
一方で、準備の関係で順延できず開催されたのが、1月31日〜2月4日に台北市内で開催された台北国際マンガ・アニメフェスティバル。5日間で40万人超の来場者があったイベントですが、想像以上の厳格さでした。
・非接触体温計による検温
・マスクの着用義務づけ
・消毒用アルコールによる手の消毒
以上の3つは、会場に入る前に必ず実施され、ブースによっては体温が37.5℃以上の場合、入場をお断りすると記された張り紙も見かけました。
イベントの目玉である作家や声優のサイン会になると、ゲストとの握手、記念撮影の禁止、会場での発熱で入場できなかった人には、後日配送にて対応するも盛り込まれていました。
開会式では、あいさつ時に壇上に上がった来賓がマスクを外していましたが、使用したマイクは、来賓ごとに交換され、スピーチ前に消毒を行う徹底ぶりでした。そして、最後の開会を告げるテープカットは全員マスク姿。今回のイベントで目立った存在だったのが人気上昇中の「鬼滅の刃」でしたが、私の中ではマスク姿のテープカットが全てを象徴しているように見えました。
5 前代未聞の無観客試合実施の高校バスケHBL
台湾のアマチュアスポーツで、日本の高校野球並みの人気と注目度がある高校バスケHBL。2月9〜16日に台北市内の2会場で男女8チームによる準決勝リーグを開催していますが、1月31日の会議で一旦、入場者の検温、マスク着用、手の消毒を経て入場できる形での開催を決めました。しかし、直前になり各チーム応援団を含む一般来場者の入場を禁止し、選手、指導者を含むチーム関係者上限30名を事前申請した上で入場を許可するという「無観客試合」になりました。
9日にメイン会場の和平籃球館、12日にサブ会場の台北体育館へ行ってきましたが、例年多くの来場者で賑わう入口前は閑散としていて、「ここが会場なの?」と疑いたくなるくらいでした。
入口を探しても、施錠されているところが目立ち、開放されていたのは1ヶ所のみ。いつもならコンコースで協賛企業のPR活動で、賑やかな雰囲気になるのが今回は不気味なくらい静か。代わりに消毒用アルコール、赤外線サーモグラフィーカメラ(75万元相当、約273万5213円だそうです)、体温計が置かれてました。
更に、各チームには、試合開始1時間前に入場可能、試合終了後1時間以内に会場を後にしなければならない、チーム関係者には2度の検温も義務付けられ、発熱があった場合は入場禁止の措置が取られる、という要請も行われました。
試合中も、ハーフタイムに協賛企業のPR活動の一環で行うミニゲーム、出場校のダンス部などのパフォーマンスが披露されるのですが、それも一切なし。
客席も、チーム関係者用の席以外は一切開放せず。和平籃球館は約7,000人、台北体育館は2,000〜3,000人入る会場での無観客試合は恐ろしく静かで、審判と両チームの選手とコーチの声が対照的に今まで以上に響き渡っていました。
試合を見ている限りでは、どのチームも試合の入り方が難しかったようで、心なしかぎこちないようにも見えました。その後少しずつなじんでいき、いつも見ているような試合の雰囲気になっていきますが、終盤シーソーゲームになった時や追い上げて点差が詰まっている時の歓声が全くなく、選手たちが流れに乗れずテンションが上がらない感があり、そこに無観客試合の難しさがあるように感じました。
報道されている範囲でコーチや選手の反応を見ていると、
「練習試合のような感覚。慣れていないし、ものすごく静か」、
「(今までの)観客がいる試合に慣れているので、影響が全くないとは言えない」
と感想が出ていました。
極め付けは、各試合終了ごとにベンチ、客席、ロッカールームのアルコール消毒。
(IMG_3647.jpg)。
それを見た瞬間ただただ驚き、「そこまでやるか」と思ってしまいました。
最後に、大会運営の担当者に話を伺ったら、
「すべて政府の要請で対応しています。でも、ここまでやるからこそ、選手たちは安心してプレーでき、私たちも安心してここで働けます」
と一言。思わず納得してしまいました。
最近はこのようなことが多く、私自身疲れ気味ですが、本当の意味で安全を考えたら「ここまでやるか」と思えるくらいがちょうどいいのでは? と最近は思うようになり、日本の対応を見ていると、「本当に大丈夫?」と思うようになりました。
今、改めてこう問いたいです。
「日本、大丈夫?」
(文と写真(冒頭をのぞく) 小川聖市)
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