海外ライターはどこに気をつけて仕事をするべきか。どんな業種でもそうですが、自分ではなかなか気づきにくいものですね。そこで今回は長年海外ライターと働いてきたベテラン編集者が、「仕事を発注する立場」から7つの注意点をお伝えします!
こんにちは。海外書き人クラブに新規入会した大塚智美です。
私は、アルクという出版社で24年間編集業務に携わってきました。ご存じのように、英語学習者向けの教材や雑誌を作っている会社なので、海外ネタを扱うことも多く、これまで海外在住のいろいろなライターさんにお仕事をお願いしてきました。
そうした経験から、「また仕事をお願いしたいな」と思ったライターさんに共通する特徴や、「こういう点に気を付けてね」と思ったことをつらつらと書いてみます。少しでも参考になればうれしいでのですが。
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1 執筆する国や話題の「立ち位置」を理解しましょう
海外のライターさんにお仕事をお願いする場合、書いていただく内容はまず間違いなく、その方が住んでいる国、あるいはその方の周辺で今話題になっていることが対象となります。その際、慣れているライターさんは、「自分の国や、取り上げようとする話題が日本ではどれくらいの立ち位置にあるのか」をちゃんと理解していらっしゃいます。
例えば、どれくらい知られているのか、興味を持っている日本人はどれくらいいそうかといったことです。なので、仕上がってくる文章も、適度に客観的で、これは読者が知らないだろうなと思うような単語には、ほどよい解説がついています。
こうした視点が抜け落ちていると、ただただ「今、私の国では、こんなことがはやっているんですよ!!! 知ってました? 日本にはないでしょ?」的な、ある意味熱の入り過ぎた記事になってしまい、読み手は「はいはい、あんたはいい国にお暮らしで」みたいに覚めてしまいます。また「ほどよい解説」がないと、編集者が調べて文中に補足したり、やたら脚注の多い記事になってしまったりすることは、容易にご想像頂けると思います。
2 初めてでもあなたは「プロ」です
御主人の海外赴任に同行した奥様が、ライターとして名乗りを挙げられることがあります。もちろんそれも大歓迎ですし、いい書き手を見つけたと思う出会いも多々あります。
ただたま~に、「だって私、主人の仕事でついてきただけですから、まだこの国のことだって良く知らないし~」と逃げを打つ方がいらっしゃいます。せっかく文章がお上手でも、こうしたメンタリティーはちょっと困りもの。
むしろ、多少文章力に難があっても、執筆するテーマについてちゃんと調べていることが分かると、編集者は「この人、頼れるな」と思っちゃいます。
調べてるとはいっても、Wikipediaからの丸写しはなしですよ。一か所でもそれをやられると、その方が書かれた情報すべてについて、編集者はチェックすることになりますので、手間が大変。もちろん次に仕事を依頼する可能性は低くなると思います。
3 原稿は校正されるものです
どんなに文章が上手な方でも、また経験豊富なライターさんでも、編集者の赤字が全く入らずに記事になるということは、ほぼないと思います。なので、ご自分がお書きになった文章は、どこかしら書き換えられて当たり前と思っていてください。こちらが一緒に仕事しやすいライターさんは、この点をよく理解してくれています。
逆に言うと、仕事がしづらいライターさんとは、著者校正をお願いしたときに、自分の書いた原稿に入った赤字が気に入らないと怒ってきたり、他の出版社とお仕事をしたときにはこんなことはなかった、とおっしゃてくる方達です。
出版社が違えば、いやもっと言うと、同じ出版社でも媒体が違えば、あるいは担当編集者が違えば、同じ文章を相手にしても、校正の度合いは違います。A社でOKでも、B社でOKとは限らないのです。
ただし、黙って編集者の校正に従えということではありません。慣れたライターの方でも、こちらが入れた赤字にコメントを返される方は、もちろんいらっしゃいます。ただ、そういう方は、ご自分が反論される説得力のある根拠を「冷静に」教えてくださいます。
4 この前、日本に帰ったのはいつですか?
お仕事をされる際、皆さんはご自分がお書きになった文章を読む日本人読者を頭に浮かべることができますか? ご自分のご親戚や友人ではなく、仕事を請け負った媒体を読む、一般的な日本人のことですよ。
海外経験が長いと、今の日本の感覚とどこかずれているなと感じる文章を書かれる方がいらっしゃいます。それはそれで貴重な文章なのですが、ちょっと面はゆい気持ちになります。
この前、帰国されたのはいつですか? その時、お友達や知人との再会に終始してしまいましたか? 日本に戻られたら、一つや二つは、何か新しい今の日本の生の情報を、また聞きではなく、肌で感じて仕入れてください。日本の媒体でお仕事をするつもりなら、インターネットからの情報だけではなく、生身の日本情報を仕入れてほしいものです。常に、今の日本の感覚を念頭に置いて執筆されると、より地に足がついた記事になります。
例えばですけど、このブログを読まれている方は、もちろんPPAPや「神ってる」はご存知ですよね。
5 男性誌に女性誌の記事を書いていませんか?
あなたは媒体に応じて、書き方を意識して変えていますか。これって当り前のことのようですが、実は結構技術を要することだと思います。ライターさんお一人おひとり、ご自分のスタイルがあるからです。
ライター歴が長い方ほど、こうした書き分けは難しいかもしれません。ご自分の得意ジャンルを持っていて、その手のものしか仕事をしない、あるいは編集者側も、このテーマならこの人、と決めている場合もあるくらいです。
でも、もし「今回は珍しく、こんなジャンルの媒体から仕事が来た!」という時は、ご用心。前の媒体でのノリのまま手を付けずに、ちゃんとクライアントの要望を確認して頭を切り替え、それに見合った記事を心掛けてくださいね。
6 媒体に目を通せるとベター
先ほどの5にも関連することですが、編集者からの依頼内容をちゃんと理解するためにも、できることなら記事を掲載することになる媒体に、事前に一度は目を通してほしいものです。特に初めての依頼の場合には。
海外で日本の雑誌を手にすることは、手間がかかる場合もあるかもしれませんが、Amazonなどを利用して入手してみてください。そうして手に入れた雑誌には、日本の現状を映し出す諸々の記事も載っているでしょうから、情報収集の上でも役立ちます。
また、記事が掲載された媒体を献本された場合には、ご自分の文章を読んでにんまりするだけではなく、他のライターさんたちの記事にも目を通してくださいね。その雑誌のトーンや、ライターさんたちの中での自分の立ち位置みたいなものも、見えてくるかもしれません。
7 日本嫌いではちょっと困ります
最後に、海外在住の皆さんにとっては、ある意味ベーシックなことを書きます。皆さんの中には、現在お住まいの国が気に入っているという方もあれば、仕方なく住んでいるという方もいらっしゃるかもしれません。海外在住になった理由は、様々だと思います。そうした思いは、うまく斟酌して記事に反映させてくださいね。
中には、今住んでいる国がどうのこうのより、日本があまり好きでなくてという方がいらっしゃいます。それはそれで、こちらがどうのこうの言うことではないのですが、できることなら、「でも、日本にもこういういいところがあるよね」という感情も常に頭の隅に置きながら執筆して頂きたいのです。
「日本のここが嫌い、あそこが嫌い」ばかりが先に立ってしまう方が海外の情報を執筆すると、どこかにそういう思いがにじみ出てきてしまいます。編集者のみならず、読者の中にもそうしたことを敏感に感じ取る方はいらっしゃるので、雑誌を作る側としては困りものです。
皆さんが一度は住んだことのある母国を、海外にお住まいだからこそ距離を置いて、悪い点も良い点も冷静に見つめながら記事を書いていただけると嬉しいです。たとえ依頼された執筆内容が、日本の「に」の字も出てこないものだとしても。
【まとめ】
- 執筆する国や話題の、日本における「立ち位置」を理解しましょう
- 報酬を得る以上、あなたは「プロ」。責任を持つ。盗用はしない
- 原稿は校正されるもの。自分の一字一句に固執しない。反論は冷静に
- サイトチェックや一時帰国で、「日本の読者と同じ感覚」を持ち続ける
- 媒体によって読者は違う。彼らに合わせて書きわけるのも力量
- 「掲載誌」は情報の宝庫。できれば事前に入手
- 「日本嫌い」の「イタい」文章では読者もうんざりする
【文:海外書き人クラブ 大塚智美】
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大塚さん。おみごとです。すごくわかりやすい指摘、ありがとうございます。