はじめまして。オーストリアのウィーン在住、海外書き人クラブ会員のNaokoです。
夏は涼しげな水辺を求めるウィーン市民が集い憩うドナウ川。その本流の河畔はもちろん、市内側に枝分かれして流れている「ドナウ運河」も磁石のように人を引き寄せます。
今回は超有名な観光スポットではないけれども市民に愛されるこの「知られざるウィーン」の姿をぶらり散策気分で紹介しましょう。
降り立ったのはショッテンリング駅。路面電車と地下鉄でアクセスできます。
まずは手前の河岸へ
駅を降り、河岸に向かって立つと右手に橋が見えます。橋の手前の横断歩道を渡ってすぐ袂の階段を下りていくのですが。
そう、この沿岸の散歩道はウィーンのグラフィティシーンとしても有名なのです。ちょっとおどろおどろしくも見えるかもしれません、でも気にせず下りていきましょう。
降り立つと目の前に広がる対岸です。これでもかと言わんばかりに所狭しとグラフィティが並んでいますね。
進行方向に目をやると、スーパーマーケットのカートがずらりと並んでいます。何やら鉢植えされています。これはブドウでしょうか。
そのまま歩いていくと、ナイトクラブ「フレックス」の入り口が見えます。
ここのオープンは夜になってからです。ウィーンでも有名なナイトクラブの一つで、ダンスフロアも広く、オルタナティヴミュージックやテクノなどのDJのライブを堪能し踊りまくることができます。
なんだか力作ですが、ストリートアートの例にもれず、上から誰かが落書きを始めています。
そのフレックスの先に見えるこんもりとした緑は「フローティングガーデン」。
「市内により多く緑の憩いの場を」という目的で、船を通航させるための百年前から設けられていた歴史的施設(現在不使用)に、ダメージを与えることなく作られたのだそうです。
ベンチもあり、のんびり寛ぎながら緑に囲まれて川面や対岸を眺められます。
ここから回れ右をして引き返し、また橋の上に戻ります。
橋の上からの眺め。
先ほどは右側の岸を散策したので、今度は左側の岸に行きたいと思います。
左側はレストランやカフェーが並んでいて大概夕方の4時ごろから開いています。曜日によってはお昼頃から開いているところもあるようです。
いざ、対岸へ
こちらも下り口はムードありますね。でも、気にせずに下りていきましょう。
たった今渡ってきた橋の下を覗いてみます。いろいろと書き込まれています。
容赦なく常に新しく描き重ねられてきたのだなと思いながら見ていると、歳月の重みを感じます。
話によると、毎日何かしら新しい作品を見られるとか。さもありなんです。
などと思っていたら、あちらこちらでスプレーで描いている人たちを見かけました。
カイザーバード水門監視所
そして、そんな只中に凛と建っているオットー・ワーグナー作のカイザーバード水門監視所。
1907年に建てられたのだとか。中は「リープフィッシュ」という名のレストランです。
「フィッシュ」と名がついているとおり、お魚料理がメインのレストランのようです。
ところで、ユーゲントシュティール様式のオットー・ワグナーの建築物は他にもいくつかウィーンで見られます。
ちなみにこの写真は、せっかくの美しい建物なのであらかじめ対岸のフローティングガーデンから撮りました。
散歩はつづく
レストラン・ネニアムヴァッサーの前を通り過ぎ、ハッ。お店の後ろの隅っこに木の陰に隠れて、なんだかかわいいヤツがこんにちはしています。
続いて歩いて行くと、「ゲマインシャフトガーデンドナウ運河」がみえてきます。
有志を募って共同でガーデニングをしているゾーンです。アスファルトの散歩道に、木箱などを寄せ集め、花壇や畑を作っています。柵、野菜を植えている木箱、テーブルやベンチと、とにかく全てが創意と工夫の手づくり感満載で、見ていて癒されます。
これもそのガーデニングの一部ですが、このスペースのテーマはひまわりだ!という意気込みが感じられます。もう少し早い時期に来ていれば、豪勢なひまわり畑が見れたのかもしれない。
そしてその向こうの柵の内側には子供の遊び場。そのせいかこちら側の河岸は子連れの人たちが行き来しています。
次に見えてくるのが隣接して建っているカフェレストラン「アドリアウィーンフォーエバー」と「テイスト!アムドナウカナール」。
このガラスの温室のような建物は「アドリアウィーンフォーエバー」。
これはもう4年ほど前にここを訪れたときの話になりますが、ちょうどお客が少なくて暇のあった店長さんとお話をする機会がありました。私が「ゲマインシャフトガーデンドナウ運河」がとても気に入ったと言ったら、このお店もそこに畑を持っていて、収穫したサラダやハーブを使ったりしているということでした。
そのままのんびりとグラフィティなど眺めながら進んでいくと、ジャグリングの練習をしている人を見かけます。彼の今日のスペシャルゲストは犬のようです。
船が穏やかな川面に波を立てて行く様を眺めます。BLUE DANUBE……青きドナウ。なんともロマンチックな名前の船です。
ザルツトア橋の下をくぐろうとすると、そこにはクールなグラフィティ。先ほど私がこの河岸に下りてきた時に渡った橋はアウガルテン橋といいます。今日は次のマリエン橋をこの散歩の最終目標にしましょう。
ムーゼというお店の横を過ぎ、川を眺めなどしていたら、白鳥が羽をピンと張り川のど真ん中を低空飛行で一直線に飛び去っていきます。さっきの船にぶつからなければいいけれど、というぐらいの勢いです。
水溜りに映るグラフィティを眺めていたらかっこいいパンツにスニーカを履いた足が通り過ぎてゆくので。カシャッ。
とにかく絵になる景色の多いスポットです。ただ、写真を撮ることに気をとられて川に落ちたり、勢いよく走ってくる自転車などにぶつからないように気を付けなくては……。
マリエン橋に着きました。これは橋の横にある船着場「ウィーンシティ(Wien City)」。スロバキアの首都ブラチスラバに向かって船が出ているそうです。レストランカフェバーもあるそうです。
再び地上へ
そしてこの雰囲気満点の階段を上ってまた上の世界に戻ります。
階段の上に物々しい建物がそびえ立っていますね。
ウィーンにはゲマインデバウテンと呼ばれる公営住宅が、犬も歩けば棒に当たると言わんばかりに数多くあり、そのうちのいくつもが文化財として保護されています。
これもその一つ。ゲオルグエマリングホーフといい1953年から1957年にかけて建てられたものだそうです。
橋の上から名残を惜しむ
これはマリエン橋の上から見える、その後も散歩を続けようと思えば行けた続きの風景。
が、私は橋を渡ってまた対岸に戻り、そこからシュヴェーデン広場で地下鉄に乗り帰路につきます。
全部で1キロにも満たないぐらいの道のりだったでしょうか。たっぷり2時間ほどかけて歩き切りました。とにかく見るものがたくさんあり、そして何を見ていても楽しかった。
そのうちまた来よう。その時は今回見たグラフィティがほぼすべて新しく塗り替えられているに違いない。冬に来ればお店で暖かくて甘いグリューワインがメニューにでているかもしれない。友達と一緒でも楽しいだろうな。ああ、歩く距離をもう少し伸ばしてもいいな。といったような次の計画をつらつらと考えながら、今日の散歩は終わりました。
ウィーンには「シェーンブルン宮殿」や「美術史博物館」など世界的に有名な観光スポットがいくつもあります。それらはもちろん素晴らしいです。必見です!
でも今回のように普段着の街並みをブラリと散策してみるのも、意外といい想い出になるものです。
(文・写真 Naoko)