経験者が語る「床上浸水のあと、実際に何をしたか、何をすべきか、何を思ったか」。6回目の今回は「陣中見舞い」と「復興への不安」を中心に書きます。
こんにちは。海外書き人クラブお世話係、オーストラリア在住ライターの柳沢有紀夫です。
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1 陣中見舞いは夜がオススメ
昨日の午後、冷え冷えのビールを持って陣中見舞にやってきた知人(日本人女性)が、夜、ちらしずしと白米のごはんと塩昆布、そしてかき氷機(もちろん手動です)と氷を持って、きてくれました。
ちらしずしがあるのに、なぜ白米のごはんもなのかというと、午後に来たときのおしゃべりの中で、「電気が通ったらまずあったかい白いご飯が食べたい、と子どもたちが言っている」という話が出たからだそうです。
このところの食事と言えば、妻が買ってくる弁当や巻き寿司やパンがほとんど(一度だけマクドナルドに行きました)。つくるとしてもインスタントのラーメンかカレーうどんくらいです。
もちろんバーベキューコンロや携帯ガスコンロに鍋をかけても白米が炊けることは知っているのですが、1日中作業をした後に、そこまでする気にはなかなかならなかったのです。
さて、その友人が持ってきてくれた白米のごはん。白米好きの次男などは、まずは何もかけずに一杯。次にふりかけで一杯。と、そこまではいいのですが、最後に「お茶漬けのもと」にお湯ではなく水をかけて一杯を食べて、みんなからあきれられていました。
でもそれだけあったかい白米のごはんが食べたかったのでしょう。
その日本人女性とお嬢さんとともに、おしゃべりをしながら、ゆっくりと夕食を楽しみました。家族水入らずもいいのですが、他の人たちとゆっくりおしゃべりするのも、とてもいい気分転換になります。
また、極限状態(は言い過ぎですが)で家族だけでいると、どうしても八つ当たりというか、言葉がきつくなることもあります。そういったギスギスの緩衝材に、友達はなってくれます。
ただ、昼間は片づけで手一杯です。だから今後、みなさんが被災者を見舞う機会があったら、訪れるのは夜が喜ばれると思います。
とくに電気もない状態では、夜はおしゃべりくらいしかやることがないですから。
どうしても日中しか行けないのであれば、作業の手を休めるお昼時がオススメです。実際に自分が被災者になると、こういうこともわかってたのしいものです。
2 復興への不安
このところ立て続けに嫌な夢を見ます。襲ってきた相手を殴ったりとか、娘が連れ去られそうになったりとか。フロイト風の夢診断をすると、治安や戸締りへの不安の表れかもしれません。
とはいえ被災地域でも、特に治安が悪くなっているということはありません。
ただ、火事場泥棒的にひと儲けしようという輩が徘徊しています。先日書いたべらぼうな額を吹っかけてきた電気技師以外にも、「水に浸かっていても、ガス器具の取り換えなんて全然いらないよ」などと適当なことを言う配管工がわが家に来ました。
しかるべきところへ問い合わせたところ、まったくのデタラメで、「そういう輩が徘徊しているので、注意してください」と言われました。
そうした輩の存在に加えて、今のわが家の戸締り状態が不安を増長させているようです。清掃作業中はあっちこっちから出たり入ったりする必要があるので、1階に3つ、2階に1つある出入り口のすべてのカギを開けているのです。
それと、大工さんの指示で1階部分の壁の下から50センチほどをすべて取り払い、スカスカな状態なのも、なんだか不安にさせるのかもしれません。
先の見えないわが家の復興への不安もあるでしょう。
今まではとりあえず朝から晩までずっと、泥水で汚れて使えなくなったもの捨てたり、清掃すべきものや場所をきれいにしたりと体を動かし続けていました。力もいるし、ホースを使って汚れを取れば自分もしょっちゅう水浸しになって体力を消耗するなど、肉体的にはつらい日々でしたが、黙々と作業を続けていればいいのですから、あまり思い悩むこともなく、ある意味で楽な日々だったのかもしれません。
ところが、そうした初期の自分たちでできる作業はだいたい終わりに近づき、これからはお金を払って専門家に任せることが増えてきます。
電気技師、ガスの配管工、エアコンの業者、大工さん、タイル屋さん、プール屋さん。
今、ざっと考えただけでもそれらの人たちに依頼しなければならず、いくらかかるのか見当もつかないのもそうなのですが、あっちこっちの家が彼らに依頼しているので、わが家の順番がいつになるか、つまり、いつ復興を終えられるのかわからないのです。
愛するわが家に対して自分では何もできず、ただ呆然と立ち尽くして待つ。それは精神的にかなり辛いものです。
3 子どもたちへの接し方
息子たちに対する接し方には、大いに反省させられました。彼らは手伝いを避けてゲームをしたりマンガを読んだりしたがるするのですが……考えてみればある意味でそれも当たり前なのかもしれません。
彼らも家が大変な状況であることはわかっていますが、自分たちの懐が痛むわけでもない。というか、今後、贅沢することは減るとか、間接的な影響はあるにせよ、そこまで深くは考えていない、というより、考えられないのかもしれません。
今、「考えられない」と書きましたが、「考えたくない」というのが、彼らの無意識の本音なのかもしれません。
惨事に遭って、現実から逃避したい。
ゲームやマンガに走るのも、そういうとこなのかもしれません。
もう17歳と16歳ですが、逆に言えば、まだ17歳と16歳です。そのころの自分を振り返ってみると、大人びた考え方をしたり、つまらない人生を送っているように見える大人を見下したりすることもあった半面、非常に幼稚だったところもあります。頭でっかちでした。
12歳の長女は、「厳しい現実にあまり顔をつきあわせたくないから」という理由から、今週も月曜日から金曜日までバレエの夏期集中レッスンに通わせ続けたのですが、長男と次男に関してもある意味で「現実逃避」をさせてやる必要があるのでしょう。
子どもたちのことばかり書きましたが、今は元気になって飛び回っている妻、そして自分の精神的健康も大切です。片付け作業ばかりしていないで、そろそろ収入を得る物書きの仕事にしっかりもどる必要があります。
そのためにも、できるだけ早く自宅に電気が通って、自由にネットにつなげたりメールチェックできたりする環境になってほしいものです。近くの小学校で充電はできるのですが、知人の家にお邪魔したり、マクドナルドなどのホットスポットに行ったりして、ネットにつなげるのも限界があります。
さっきふと、「地震、洪水、カミナリ親父」という言葉が頭に浮かびました。地震や洪水に遭うたびにイライラして、カミナリ親父になる自分に対する自戒の意味も込めて、ここに書き記しておきます。
【文と写真 柳沢有紀夫】
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