経験者が語る「床上浸水のあと、実際に何をしたか、何をすべきか、何を思ったか」。8回目の今回は「ガス給湯器が使えない家でどうやって風呂にはいるか」について書きます。
こんにちは。海外書き人クラブお世話係、オーストラリア在住ライターの柳沢有紀夫です。
2018年7月の西日本豪雨でも、広島県呉市で自衛隊が設置した仮設風呂が3時間待ちだったとか。それだけ待ってもお風呂に入りたい気持ち、同様に被災した私はよ~くわかります。
そこで今回は「都市ガスが止まっていても家で風呂に入る方法」を5つお伝えします。
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1 電気ケトルでお湯を沸かす
床上浸水に被災して12日目(家にもどったのは浸水の4日後ですから、実際に停電生活をしたのは8日なのですが)。とうとう電力会社の人が通電に来てくれました(浸水後は漏電などの恐れがあるため、一軒一軒チェックしないといけないのです)。
その日の夕方5時。この8日間ずっと夢に見ていたことをとうとう実行に移しました。
それは「お風呂に入ること」。それまで冷たい水のシャワーは浴びていたので不潔ではなかったと思いますが、やっぱり日本人なら、疲れたときは風呂がいちばんなんですね。
で、ガスはまだでも電気が通ったのを記念して、「風呂に入るぞ大作戦」を決行したのです!
ガス給湯システムが作動していない状況で、どうやって風呂に入るのか? 最初に思いついた案はこれです。
そうだ、コーヒー用などのお湯を沸かす電気ケトルを用いればいい!
一回に沸かせる量は1.8リットルです。バスタブに通常にお湯をはると180リットルくらいでしょうが、災害復興中なのでぜいたくは言えません。半分の90リットルもあればいいでしょう。
さらに言えば90リットルすべてを熱湯にする必要はありません。そんなことをすれば、私はダチョウ倶楽部になってしまいます。
45リットルくらいのお湯を沸かして、水を45リットルくらい入れれば、途中でお湯がさめることも考慮に入れれば、ちょうど40度前後になるはず。
1.8リットルの電気ケトルで25回沸かせばいいだけです。
……と、計算上ではこうなります、計算上では。
ところが……。まったくの常温の水1.8リットルを電気ケトルで沸かすのは、たとえオーストラリアの240ボルトでも大変なわけですね、これが。だいたい1回3分くらいかかります。
それを湯船に入れると放熱して水温が下がってしまい、しかも電気ケトルも何度も使って熱くなりすぎるとリミッターが作動するのか使えなくなります。
ということで、できたお湯は電気ケトル10回分の18リットルほど。お湯も時間が経ってどんどん冷めますから、水はほとんど加えませんでした。
結局バスタブに溜めたのは20リットルほど。「たっぷり」が180リットルですから、その9分の1です。具体的に書くと、バスタブに伸ばした脚の、太ももの下半分くらいが湯に浸かるくらい。足湯ならぬ、脚湯(ただし下半分)です。
それでも湯気が下のほうから上がっている感じはいいものでした。しかも「脚湯(ただし下半分)」でも、上半身にもかなり汗はかくものです。
2 カセットコンロでお湯を沸かす
この翌日、もう一つの方法を思いつきました。それは「ガスボンベを用いるカセットコンロは使って、パスタ鍋などで一気に10リットルずつくらいお湯を沸かす」です。はい、鍋料理のときにつかうあれです。
じつはカセットコンロは都市ガスとはぜんぜん関係ないですから、じつは今までもこの方法が使えたわけですね。そう気づいたときには愕然……。
ところが実際にやってみると、カセットコンロは意外と非力でした。
電気ケトルと携帯ガスコンロの両方でお湯を沸かしたのですが、45分間でかけても、バスタブで太ももがすべて浸るまでにはなりませんでした。それでも「脚湯」はできます!
3 ソーラーパワーを使う
「おいおいおい。被災してすぐにソーラーシステムなんて設置できないだろう」という声が聞こえてきそうですが……そんな立派なものではなく、もっと原始的に「太陽熱で水を温める」方法があるのです。
じつはわが家を中古で買ったときに、庭に直径1メートルくらいの小さな池がありました。それは地面を掘って、そこにプラスティックの巨大なお椀のようなものを埋めてつくられていました。
前に住んでいた人たちは、庭園風というイメージだったのでしょうが、淀んだ水を溜めておくと蚊の発生源になるし、子どもたちとキャッチボールやら球蹴りをするスペースが干しかかったので、私と妻はその巨大お椀を取りだし、池を埋めました。
で、その黒いプラスティック製の巨大お椀のほうはプールに浮かべて、一寸法師の「お椀の舟」のように使っていました。そしてこれの別の使い方として、「お水を溜めておくとしばらくすると温まるので、プールで冷えた体を温める」ということにも使っていたことを思い出したのです。
さきほど書いたように、黒いので太陽の熱をいっぱい吸収します。で、夕方あたたかくなったところで、バケツを持って何往復かしてお湯を風呂場に運ぶ。極めて原始的ではありますが、ソーラーパワーウォーターシステムなわけです。
で、実際にやってみた結果ですが……お椀の中の上のほうは熱いのですが、下のほうはそれほどでもなく、全体的には「ぬるま湯」程度でした。なんでその程度しかあたたかくならないかと言うと……結構放熱するんですね、カバーがないから。
そこで考えた第二のソーラーパワー利用法は、「黒いビニール袋の中に水を入れて放置しておく」という方法です! これだと密閉されているので放熱しないし、しかも「お椀」のときのように「底のほうが冷たい」ということにはなりません(厚さはせいぜい1センチほどなので)。
バスタブ半分くらいにするにもかなりの量のビニール袋が必要になりますが、これは非常にいい方法でした。
気をつけるポイントは、「夕方、陽が斜めになるとビニール袋の中身も冷えてきてしまうので、4時ごろまでには風呂に入ること」です。
➀電気ケトル、②カセットコンロ、③ソーラーパワーと3つの方法を紹介しました。でもこれらの方法にはじつは致命的な欠点があります。
というのは外気温も常温の水の温度も高い夏場ならだいじょうぶですが、逆にどちらも低い冬場だと水温を上げるのに夏場よりずっと時間がかかることです。外気温が低いと「脚湯」くらいでは体が冷えるかもしれません(そのときはスッポンポンは諦めて、服を着たまま本来の「足湯」で我慢したほうがいいでしょう)。
特に③ソーラーパワーは冬場だけでなく、曇りの日にも使えませんね。まあ、太陽熱で少しだけでも温めてから電気ケトルやカセットコンロで沸かすという方法はあるのですが……。
で、最後に紹介するのが冬場でも電気と水さえあれば快適にお風呂に入れる方法です。
4 熱帯魚用のヒーターでお湯を沸かす
1995年、私が「阪神淡路大震災」に被災したときに、会社の総務の人がどこでどう思いついたのかわかりませんが、おもしろいものを支給してくれました。
それは「熱帯魚用のヒーター」! 水槽に入れておき水温を上げる装置です。風呂に水を張って、このヒーターを入れておくのです。
ただそもそも熱帯魚用に水温をおそらく30度くらいまで上げる上げるための装置なので、かなり非力。冬場だと人間が風呂を楽しむような40度くらいにするには、朝バスタブを満たした水の中に4本入れて延々約8時間待つ必要がありました(外気温などによって時間は違ってきますが)。それで夕方になるとちょうどいい湯影になって、お風呂に入れることができるのです。
しかし「地震の後、ガスが通っていない家にはこの手がある!」と思いついて、手配してくれた会社の同僚には感心し、今でも感謝しています。
5 番外編 焼石をぶち込む?(未体験)
どうにかして風呂に入るという話で、お世話になっている編集者がこんなことを教えてくれました。
「昔読んだ小説で、太平洋戦争後も南方に残り、現地の復興に尽力した旧日本兵のために、村人たちが確かプールに熱した石を入れて、日本風の風呂を提供してあげる話があった」とのこと。
「焼け石に水」と言いますから、焼いた石はかなり熱があるのでしょうね。
というわけでバーベキューのコンロでガンガンに焼いた石をバスタブに放り込むことも検討してみたのですが……そんなことをしてプラスティック製のバスタブはだいじょうぶなのか? 溶けて、穴が開いてしまうことはないのか?
「前は洪水、今は漏水、なーんだ?」というできそこないのなぞなぞみたいなことになりかねないという一抹の不安があり、実行しませんでした。ステンレス製の湯船だったり、プラスティック製でもそこに皮か何かを敷けばいいのかもしれませんが……。
被災後は後片付けや何やらで肉体労働が増え、体が凝ります。散水しながらの掃除で冷えたりもします。そんなときの温かいお湯の心地よさと言ったら……。
今回の記事がほんの少しでも参考になれば幸いです。
【文と写真 柳沢有紀夫】
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