【災害対策】(まとめ)洪水と床上浸水のあとにするべき14の対策

洪水後のエアコン室外機

2018年7月上旬の西日本豪雨。多くの家々が洪水に遭い、床上まで浸水した思います。

じつはオーストラリア・ブリスベン在住の私も、じつは2011年1月に床上1メートルの浸水を実際に経験しました。そこで経験者として「床上浸水のあと、実際に何をしたか、何をすべきか」を記す記事を書いてきました。

今回はその【まとめ】です。やるべきことを箇条書きにしました。被災した皆様に、少しでもお役に立てばと幸いです。

※ただしこれは2011年の外国における例です。行政などが公式発表する話に従い、この記事をあくまでも参考程度にしてください。また記事内容で損害等を受けられた場合も、私は責任を持てないことを明記しておきます。

こんにちは。海外書き人クラブお世話係、オーストラリア在住ライターの柳沢有紀夫です。

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1 安全第一! 片付けなどの作業は水が消えてから

洪水後の外壁は見事なツートンカラー

洪水後の外壁は見事なツートンカラー。昔の東海道線や横須賀線を思い出した。呆然とすると人はどうでもいいことを考えるのか、はたまた私だけが現実逃避癖があるのか

洪水の水にはいろいろなものが含まれています。たとえば……。

  • 人間や家畜、野生動物などの糞尿
  • 土の中の菌(破傷風菌など)
  • 工場や整備場・病院などが浸水していれば、そこで使われる化学薬品・劇薬など

つまり「洪水は汚水」なのです!

また洪水は泥水ですから、下に何があるか見えません。つまずいてケガをすることもありますし、足が何かに挟まって動けなくなったり、場合に寄っては倒れて溺れることもあります。

「早く片づけたい」という気持ちは、痛いほどわかります。でも「安全第一」です。そしてこのあと記していきますが、残念ながら復興は長期戦です。一週間やそこら慌てても仕方がないのです。

 

2 作業は長袖・長ズボン、ゴム手袋、長靴、ゴーグル着用で

浸水後の掃除のときの服

暑いでしょうが長袖も忘れずに

使い捨てのビニール手袋

使い捨てのビニール手袋は便利です!

上記の(1)で書いた通り、洪水の水は汚水です。そして片付けや掃除の際には欠けたものや割れたもので思わぬケガをすることがあります。そこから黴菌が入ると大変です。

長袖・長ズボン、手袋(ゴム手袋が分厚くていいのですが、すごく蒸れて指の皮がふやけてやぶれることがあります。少し薄いですが、歯医者さんなどが使う使い捨てのビニール手袋もオススメです)、長靴着用が「正装」です。……とはいえ長靴も蒸れるので、私は泥水を洗い流し終わったらスニーカーなどにしていましたが。

ちなみに私がブリスベンで洪水に遭った際は、近くの学校が臨時の保健所となり「破傷風の予防接種」が無料で提供されました。

また「汚水が目に入るから」ということで「ゴーグルなどで目をカバーすること」が推奨されました。

 

3 そのほかに気をつける健康被害

・熱中症

自分の家が水害に遭ったのですから、どうしても片付けや掃除に一生懸命になりがち。作業に「熱中」しがち。はい、そうです。暑い時期、暑い場所での長時間の作業は「熱中症」になりやすいので気をつけてください。

熱中症が心配なのは屋外だけではありません。停電中でエアコンや扇風機が使えない屋内でも、夏場は危険が高いでしょう。

こまめに水分補給し、首筋・脇の下・太もものつけねを冷やす(氷や保冷剤がない場合は、水で濡らしてうちわであおいで気化熱で冷やすこともできます)などしてください。

・日焼け

・ぎっくり腰

この2つは私が実際、浸水後の掃除などで体験したことです。特に声を大にして言いたいのは「ぎっくり腰」。水を使った作業で体が冷えているところに、同じ姿勢で細かい泥を取りつづけ、クシャミをしたその瞬間……悶絶しました。

「早く元通りの生活がしたい」ととかく無理しがちです。がんばりたい気持ちは痛いほどわかります。でも熱中症も日焼けもぎっくり腰も、がんばりすぎが原因になることがあります。

「一気にがんばりすぎないことも長くがんばる秘訣」と考えてください。

 

4 捨てなければならないもの

洪水後のゴミの山

洪水後のゴミの山。左端が本棚3架。水を吸って重かったのが右端のマットレス2枚

水に浸かったらおそらく捨てなければならないものをまとめます。

・本などの紙類

洪水で散乱した書籍や家具など

・防水でない電化製品(冷蔵庫や洗濯機)

洪水後の家の中

洪水後の家の中。泥が堆積。真ん中の白い物体は倒れた冷蔵庫

・ガス給湯器

もちろんガスなので、専門家に取り換えてもらう必要があります。

・バルサなど合板の家具

合板でできているため使えなくなった本棚

合板でできているため使えなくなった本棚

形が崩れてしまうので、乾いても使い物になりません。

・木材だけを組み合わせたのではないドア

軽くするために合板を使い、中身を空洞にしたドア。室内用のドアはこのタイプが多いかもしれません。ふくれてしまって使い物にならないし、中に汚水が入ってカビや雑菌が繁殖するそうです。

・マットレスなどのスポンジ製品

これも雑菌が繁殖するので。

・ウールなど水洗いできない衣類

 

5 捨てなくていい(かもしれない)もの

・エアコン室外機

洪水後のエアコン室外機

泥水に浸かりこんな状態になってしまったのだから当然廃棄だと思っていたエアコン室外機だが……

「電化製品で水に浸かったから絶対にダメだろう」と思い込んでいたのですが、そもそも雨露にさらされるものなので、使いつづけられる可能性があります。ただしそのままでは使えず、専門家のチェックが必要です。

その専門家によると、スウィッチをつけると磁気でピタッとくっつく「マグネティック・リレー」という名の部品があるのですが、そこに泥が入るとつかなくなるとのこと。そのときには「マグネティック・リレー」の交換が必要だそうです。「物理的には部品を分解して、泥を丁寧にとればこのまま使えるんだけど、そのほうがコストもかかるので」とのことでした。

ちなみにわが家では4基中2基は「マグネティック・リレー」を交換するだけで、残りの1基はそれすら交換せずにだいじょうぶでしたが、1は室外機がまったく使いものにならなくなりました(他のものよりも1メートルくらい低い場所に置いてあり、浸水していた時間が長かったことが原因かもしれません)。

ちなみにエアコンは「室内機と室外機をセットで販売」しているので、室外機だけ交換というのはできないと言われました。

・合板を使っていない木製の家具

ただしニスなどでカバーしたもの。またきれいに水洗いしたあと、しっかり乾燥させる必要があります。

・水洗い可の衣類

 

6 壁が「プラスターボード(石膏ボード)」なら、浸水した部分は早めに完全にはがす

浸水した壁が「プラスターボード(石膏ボード)という板」かどうか、まずチェックしてください。土壁おそらく普通の居室やトイレの壁はこれが多いと思います。風呂場は違う場合がほとんどだと思います。

というのはこの「プラスターボード」、軽くて丈夫、断熱性や遮音性も高く、コストが安いとほとんどいいことずくめなのですが、唯一といっていい欠点が「水分や湿気に弱い」こと。だから風呂場ではあまり使われないのです。

そういう弱点を持った板ですから、浸水したらもうダメです。水が引いて乾き、見た目は平気でも、靴を履いてトンと軽く蹴ったらボコッと穴が開くくらいもろくなっています

洪水で壁に空いた穴

洪水で壁に空いた穴。でもあとで、自らもっともつと大きな穴を開けることになります

さらにこの「プラスターボード」は柱をはさむようにつけられるのですが、2つのボードの間の空間にも汚水が入り込んでいます。で、そのままにしておくと雑菌やカビが繁殖するそうです(湿気の宝庫ですからね)。

というわけで自分の家の壁を壊すのは忍びないでしょうが、心を鬼にして浸水した部分のプラスターボードを引きはがしてください(浸水していない部分ははがす必要はありません。たとえば床上1メートル以下の浸水なら天井に近い壁は壊す必要はないです)。

しかもはがすときは、遠慮がちではなくボード一枚分すべてはがしてください。というのは……。

  • どうせ最終的にはすべてはがしてつけかえる
  • きちんとはがして、柱や床をしっかり水洗いして雑菌を流す必要がある

からです。

プラスターボードを壊したところ

でも結局こういう風に「一枚分」壊さないといけないのです。パカッと入れ替えるのですから……。ということで壊すときには忍びないでしょうが、こういう状態にまでしてください

またこの水洗いを終えてから、「最低でも1ヵ月、できることなら3ヵ月以上そのまま放置して木の柱などを乾かすように」という通達が、私が被災したときにはありました。柱に湿気が残ったまま慌てて密閉すると雑菌が繁殖したり、木が腐ったりする可能性があるからだそうです。

3ヵ月……。長いですね。でもわが家は1階だけが浸水して、じつは2階だけでも生活できるつくり(1階はガレージとか、2つめのトイレやシャワールーム、家事室などなど)だったので、「後回しでいいですよ~」と呑気に構えていたら改装が終わったのがなんと被災の10ヵ月後でした。

 

7 水洗いは「高圧洗浄機」が便利

浸水した家は床も壁も泥だらけだと思います。水洗いしないといけませんが、「高圧洗浄機」という機械があると便利です。コイン洗車場に行くとものすごい水圧で汚れを落とすのがありますが、あれの持ち運び可能版です。

ただ……買うとそれなりの値段がします。私が被災したときは、ボランティア団体の方が同じくボランティアで「高圧洗浄機」を持って被災地を回っている方を手配してくれたのですが……日本でもそういう動きがあることを期待しています。

ちなみに「高圧洗浄機」を使う前に、(5)の「プラスターボードはがし」をすることを強くおすすめします。そうすればプラスターボードとプラスターボードの間の床に堆積している雑菌などが含まれている泥も、高い水圧で一気に洗い流せることができるからです。

 

8 電気の復旧

浸水したコンセントはすべて取り換える必要があるはずです。もちろんこの作業は資格を持った電気技師に任せないといけませんが、多くの世帯が被災しているので、自分の家に順番が回ってくるのに時間がかかることもあると思います。

で、このコンセントの付け替えだけでOKかというとそうではなく、少なくともブリスベンでは電気技師が「直した」という証明書を発行し、それを電力会社の人たちが一戸ずつ確認しながら通電していきました。

日本でも同じなのか違うのかわかりませんが、とにかく電力会社のホームページや行政からのお知らせなどで確認してください。

ちなみにわが家に通電したのは、水が引いてから10日後のことでした。

それまではキャンプ用の「ランタン」とか、直径7~8センチくらいのぶっとい「ろうそく」(これが意外と持ちます。32時間くらい使って2センチくらいしか減りません)を使っていましたが、今なら100均にある「乾電池式LEDデスクライト」も便利だと思います。食卓などにも置けるし、懐中電灯と違って持っていなくてもいいので、両手を使った作業もできるからです。

 

9 ガスと給湯器

電気よりも時間がかかるかもしれないのがガスの復旧です。電気の漏電もですが、ガスが爆発したら大変ですからね。

ちなみにわが家にガスが戻ったのは水が引いてから30日後です。

電気と同様、ガスに関してもガス会社のホームページや行政からのお知らせなどでしっかり確認してください。

 

10 「火事場泥棒」が跋扈するのでご注意を

「○○○○をしないといけない」「□□□□は全部取り換えなきゃいけない」。そんな風に喧伝しながら被災地を回る人が出てくる可能性があります。たとえ技術者だとしてもうのみにせずに、電気会社やガス会社、市役所や村役場の公式情報を確認してください。

またここぞとばかりに料金をふっかける「ボッタクリ」の業者もいます。普段よりも多少高くなるのは仕方がないかもしれませんが、何倍もの額を吹っかけてくる人もいるでしょう。また資格はあっても経験が足りず、技術的にどうかという人もいるかもしれません。

変な形につけられた電源のスウィッチ

変な形につけられた電源のスウィッチ。「これがプロの仕事?」と疑問に思ったが……あとから怪しいことがあれこれ判明した

相見積もりを取るなり、それがむずかしいようであればウェブ検索で「相場」を知るなりして、自己防衛してください。

できるだけ早く電気やガスが通ってほしい気持ちはわかります。でも(5)で書いたプラスターボードの張替えなど、これからたくさんお金がかかることをお忘れなく。

 

11 保険と保証、義援金など

住宅保険(火災保険・地震保険)に入っている人は、内容をチェックしてください。たぶん洪水は「特約事項」で、それを加えていれば問題なくカバーされるはずです。

ただ「特約」なので、洪水被害を加えていない方も多いと思います。じつはわが家もそうでした。

ただオーストラリアの場合、「洪水特約」に入っていなくても「道路わきの排水溝から逆流した水で浸水したら、それは洪水ではないので支払う」という話がありました。日本でどうなのかはわかりませんが、そういうこともあると念のためお伝えしておきます。

また「西日本豪雨」でも「ダムが貯水量をオーバーしたから決壊して巨大災害になるのを避けるために、洪水の可能性はわかっているがやむなく放流した」という箇所がいくつかありましたが、私がブリスベンで遭った洪水もまさにそのパターンでした。

で、「降水量を予想して洪水にならないよう、もっと早めに放流しなかったのだから、天災ではなく人災である。つまり地方自治体の責任である」と主張して集団訴訟を起こそうという話が、数年続いた気がします(もしかしたら今でもあるのかもしれません)。

わが家は物損分くらいの義援金は受け取ることができた(とはいえ浸水したエリアということで不動産価格は大幅に下がりましたが……)ので参加はしませんでしたが、そういう抗議や訴訟も可能であることを念頭に置かれておいても損はないとは思います。

 

12 ガスが通っていない状態でのお風呂の入り方

1日中掃除やらゴミ捨てやらで肉体労働を続けると、やっぱり恋しくなるのがお風呂! とはいえ被災直後はガスが通らず、給湯器が使えないことがおおいと思います。

でも水道が通っていれば給湯器がなくても、お風呂気分を味わうことができるのです。その方法には……。

  • 電気ケトルでお湯を沸かす
  • カセットコンロでお湯を沸かす
  • 黒いビニール袋に水を入れて日向で放置する
プラスティックのレジ袋

プラスティックのレジ袋に水を入れて並べているところ。灰色も試したが、やはり黒のほうが熱くなります。レジ袋は破れやすいので、本当もっと丈夫な袋があるといいのですが……

  • 熱帯魚用ヒーターを湯船の水につっこんでおく
  • 熱した石を湯船の水に入れる(ただしこれは私は未経験)

などがあります。

詳しくは【洪水と床上浸水のあと何をすべきか8~ガスなしで風呂に入る5つの方法】に詳しく書いたので、そちらをご覧ください。

もちろん銭湯やスーパー銭湯などに行けるのであれば、それも手だと思います。

じつは私が被災したとき、車で5分の公共プールで「温水シャワーが無料開放」されていたのですが、利用可能な7日間のうち1日しか使わず、わが家の「冷水シャワー」で我慢しました。理由は「温水シャワーを浴びに行く時間があるのなら、その分だけ片付けや掃除をしたい」と思い詰めていたからです。

被災したとき、みなさんもそんな風にストイックに思い詰めてしまうかもしれません。でもあなたは今、大変な困難に遭遇しているのです。1日中復旧作業したあなたは(そして1日中避難所で不自由な暮らしを強いられたあなたも)、熱いお風呂にはいる権利があります。アルコールを飲んで、ほろ酔いになる権利もあります。

どうかストイックになりすぎないように「息抜き上手」という言葉を常に思い浮かべてください。

 

13 行政やボランティアへのお願い

被災地では行政やボランティアのみなさんが一生懸命働いてくださっていると思います。本当に頭が下がります。

でもみなさんの働きがさらに被災者の役に立つために、いくつか提言というか……こんなものがあったら嬉しいなあということを、経験をもとに挙げたいと思います。

・被災家屋に出向いての食事の配布

学校や公民館などの避難所で食事を配るのもありがたいことです。ただすでに家に戻ってゴミ捨てとか水洗いなどなどをしている人たちは、「とにかく早く家を片付けたい」という気持ちでいっぱいですから、物資をどこかに取りに行く気にはなかなかならないのです。これは体験した人でないとわからない被災者心理かもしれません。

というわけで、「被災家屋に配布」して回ってあげるとすごく喜んでくれる人が多いのではないかと思います。

・アイス/フルーツ/ケーキの「スイーツ」や「冷え冷えの水」や「冷え冷えのビール」の配布

私が被災したときいわゆる「食事」だけでなく、上記のようなものもボランティアが配りに来てくれたり、友人が差し入れてくれたときには本当に感激しました。電気が通っていない状況だと、当然冷蔵庫も使えないですから、冷え冷えのものを食べたり飲んだりできないのです。

水はまだしもスイーツやビールは贅沢品かもしれません。でもそれがあると、いや、それがあるだけで少し元気になれるのです! いっぱいの冷たい水、一つのアイスやカットフルーツが、本当にうれしいのです。特に夏場は。

 

14 被災したみなさんに伝えたいこと

じつは私、阪神淡路大震災でも被災し、住んでいたマンションは半壊認定で引っ越しを余儀なくなれました。そして2011年には洪水を経験しました。ダブルパンチですね。

思い出の品々とか宝物だと思っていたものも、それなりに捨てなければなりませんでした

ただ……こんな風に考えることにしました。「モノはなくなった。でも自分は生きている。家族は無事だ。そして、本当に大切なものはすべて頭と心の中にある」と。

失ったものを嘆いていても始まりません。私には頭が残されているのだから、損害はこれから仕事をして取り戻せます私には心があるから、失くしたものでも、いつでも記憶の中でよみがえらせることができます

だいじょうぶです。

本当に大切なものはすべて頭と心の中にあるのです。

被災者が大変なことは、私も自分で体験しているのでわかります。でもいつかこんな風に「次に被災した誰かをサポートする立場」になれます。被災の経験は必ず、次に被災した人の役に立ちます。どうかがんばってください!

 

この記事以外にも洪水と床上浸水がらみでいくつかの記事を書いています。今回の記事のさらに詳しい内容に加え、そのときどきの「心境」や「学び」もつづっているので、ご興味がある方はぜひ!

※追記

水害後の対策も専門にされている大学の先生が、下記の記事を教えてくれました。専門的なノウハウが満載ですので、こちらもぜひご覧ください。

http://www.risktaisaku.com/articles/-/7549

【文と写真 柳沢有紀夫】


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