旅行の楽しみは食事。日本一時帰国の楽しみも食事。そんな「歩く食いしん坊万歳」状態の私が思いついた企画。それが今回から始まる【世界の国民食】です。
こんにちは。海外書き人クラブお世話係の柳沢有紀夫です。
さて、第1回のテーマは「朝食」。趣味と実益を兼ねた企画だし、朝食だけに「朝飯前」だと思って始めたのですが、難問発生。というのは……原稿と画像を受け取るたびに腹が減って大変でした。
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ちなみに「国民食・伝統食」を集めていますが、その国の人が毎日毎日これらを食べているということでは必ずしもないと、お断りしておきます。日本でも「絶対にごはんに味噌汁」という人もいれば、「パンとハムエッグとコーヒー」派という人もいれば、「その日の気分で」という人もいるのと同じですね。
あっ、それで思い出しました。昔、日本で外資系広告会社に勤めていたころ。某食品メーカーがドレッシング代わりにサラダにかけるクリームソースを発売するというので、それをどう売り出そうかというプランニング会議をすることになって、アイディア出しを求められたんですね。それでいくつか出した企画の中で「朝だ! サラダ!」というのがあったんです。
「朝からしっかりサラダを食べるためには、このソースがいちばん」という、まあオケージョン提案というものです。語呂もいいというか、全部「あ」の音ばかりで、見事に韻を踏んでいます。韻を踏むのが大好きなアメリカ人、イギリス人たちにもウケるはずと自信満々で披露しました。ところが……。
日本人のみんな「ああ、なるほどねえ」とうなずいてくれるのですが、アメリカ人とイギリス人は一同キョト~ン。
「ええっと……何か変ですかね」
みんな役職的には私よりもずっと上なので尋ねたところ、返ってきたのはこんな答え。
「サラダを食べさせるようっていうのは無理なんじゃないかな、朝っぱらから。ただの一商品が、消費者の生活習慣まで変えるっていうのは、大変だよ」
今度は日本人一同がキョトン。しばらくして日本人の一人が、「あっ、そういえばアメリカとかのホテルのビュッフェスタイルのブレックファーストで野菜サラダ、置いてないよね」と気づきました。
そうなんです。我々日本人は洋風の朝ごはんというと、「パンとハムエッグと野菜サラダ」と思い込みがちですが、少なくとも英米系の人たちは朝から野菜サラダを食べないんですね。フルーツは食べますが。
すみません。前振りが妙に長くなりましたが……とにかくまず、ヨーロッパのど真ん中、オーストリアのネタから見てみましょう。
1 オーストリア。ハムとチーズの優雅な朝
ウィーンだけではなくオーストリアの典型的な朝食といえばセメル(ゼンメルとも)とハム、チーズ。 ハムやチーズの種類もとても豊富で、それぞれの地方によって色々な特産品などもあり、カフェやホテルの朝食では必ずあり、 スーパーやマーケットでもたくさんの種類が売られています。
また卵もよく出てきます。 半熟のゆで卵は卵立てに入れて縦に出てくるので上をスプーンの背で割るかナイフで切り、中身をくり抜きながら、お好みで塩をかけていただきます。カフェでは卵料理のバラエティーもとても豊富。スクランブルエッグやオムレツ、目玉焼きなどチョイスは昔から沢山ありますが、最近ではエッグベネディクト(↓)など食べられるところも増えてきました。
そしてこれまた種類の多いのがジャム。家庭では手作りジャムがよく作られ、カフェやホテルなどの朝食でも数種類のジャムやハチミツが揃っています。ストロベリー、ラズベリーの他、良くあるのが杏ジャム。世界遺産のヴァッハウ渓谷の名物でもあります。そして日本ではほとんどみないルバーバのジャムもよく食べられています。
オーストリア人家庭でよく食べられている朝食は以上ですが、カフェやレストラン、ホテルでは国際的な都市を反映してオリエンタルやアラブ、アジアン朝食を用意している所も多くみられます。近年ではヘルシー思考も高まって来てベジタリアンや、バイオ食品を使用した朝食が食べられるところも増えました。
(バレンタ愛)
やっぱりオーストリアは全体的に優雅な印象がありますね。次はイギリスからです。
2 イギリスの知られざる伝統食
イギリスの朝食と言えば卵、ベイクトビーンズ、ベーコン、ソーセージ、ベイクドトマトなどが豪快に乗せられた「イングリッシュブレックファースト」が知られています。そして意外と知られていないけれど(わたしも知りませんでした)。これぞ英国という典型的な朝食メニューが他にもあるので、それを二つ紹介させてください!
一つは「キッパー(Kipper)と呼ばれるニシンを塩漬けにして燻製にしたもの。塩漬けにしたニシンを燻製にしてあるので、すごく塩がきいていて、魚油がみなぎっています。日本人的には白ご飯といただきたい一品なのですが、イギリスではパンとオレンジジュースといただきます。
キッパ―を食べて、口の中が脂でみなぎったところにオレンジジュースを飲むと、おやっ…! この組み合わせが実に絶妙なんです。魚のオイルとオレンジのフレッシュさが口の中でなんともいえない巧みな味を生み出す、というわけで非常に西洋的な魚料理の組み合わせが楽しめる朝食です!
もう一つは、「ソールジャー(Soldiers)」、「兵隊」なんていう危なっかしい意味の朝食です。とはいえ実際は、細長くカットされたトーストを半熟に茹でた卵と食べるとっても平和的なメニュー。
正式名は“卵とソールジャー(Eggs with Soldiers)”。細長くカットされて並べられたトーストが列に整列する兵隊を連想させるからソールジャーと呼ばれているんだとか。
(ボッティング大田朋子)
じつは私、柳沢の初めての海外旅行というのが、スコットランドへの1週間ほどの出張だったのですが、「キッパー」はハマりましたね。あちこちまわる取材旅行だったので、昼飯が毎日ドライブインみたいなところで「ステーキとポテトと温野菜」ばかりだったので、魚料理がうれしくて……。でも「ああ、ここにごはんとみそ汁があればなあ」という望郷の念にも駆られ……よし悪しでしたね。
さて、次は私が住むオーストラリアです。
3 オーストラリア。大食漢向けの「ビッグブレッキー」
イギリスで「卵、ベイクトビーンズ、ベーコン、ソーセージ、ベイクドトマトなどが豪快に乗せられたイングリッシュブレックファースト」という話が出てたので、オーストラリア版のそれを紹介しましょう。
ジャーン! その名も「ビッグブレックファースト(Big Breakfast)」。……そのまんまですね。省略大好きなオーストラリア人は「ビッグブレッキー(Big Breakie)」と呼ぶが多いです。
写真のものはソーセージ(フランクフルトくらいの長さだけど少し細い)が2本、目玉焼き(両面焼き)が2枚、厚切りベーコン2枚、半分に切った焼きトマトが2個、ハッシュブラウンにバーガー用のパンという内容。2本とか2枚とか入っているものが多いので、ビッグよりも大きい「メガブレッキー(Mega Breakie)」と名づけられていました。
ただオーストラリア人も、毎日朝からこんなものを食べているわけではありません。土日のブランチとか、平日のカフェで「オールデイブレックファースト(All day breakfast)」(一応朝食の扱いだが一日中提供するメニュー)として出されているものをランチに食べるといったことが、むしろ多いと思います。
あと、やっぱり「野菜サラダ」はついていないですね。その代わりというか、日本ではあまり見慣れないのは「焼きトマト」でしょうか。「トマトを焼くだと?」とゲテモノ扱いされるかもしれませんが、甘みが出て、意外とおいしいです。
(柳沢有紀夫)
4 中米のグアテマラ。不動の朝食おかず3品とは?
グアテマラの朝ごはんと言えば、トルティーヤまたはパンにフリホーレス(インゲン豆)、卵、プラタノ、フレッシュチーズ、オレンジジュースやコーヒーなどからなる、結構ずっしりとくるメニューです。
卵は目玉焼きかスクランブルエッグが多いのですが、写真は「離婚したタマゴ(huevos divorciados)」というユニークな名前がついた目玉焼き。トマトベースの赤いソースとミルトマテというホオズキの一種をベースにした緑のソースが2つの目玉焼きの相容れない関係を表している…のでしょうか。
あんこのように見えるフリホーレスですが、甘くはなく塩味です。写真の通りペースト状だったり、豆の形が残っている煮豆状だったりしますが、卵料理との相性も抜群なスグレモノ。
バナナを一回り大きくしたプラタノ(プラティン)は、生食はできず、加熱調理して食べます。素揚げしたプラタノ・フリットは甘くてとっても美味しいのですが、カロリーお高めなのがいささか問題。
主食であるトルティーヤはマヤの時代から食べ続けられている食べ物です。トウモロコシの実をはがし、水につけて柔らかくしたものを曳いてできた生地をおせんべい状に薄くして焼くのですが、都市部ではトウモロコシ粉を使うことも多くなりました。私も時々作ってみるのですが、こんなきれいな円形にはなかなかなかなりません。
トルティーヤだけではなくパンもよく食べられています。白パン、甘味のついた菓子パンなど、種類も多々。手前の薄いパンはそのまま食べるとカリッとしているのですが、グアテマラの人たちはこれをコーヒーに浸し、柔らかくして食べます。そうするとパンの甘味とコーヒーの苦味がマッチして病みつきになる美味しさ。そうしてまたつい食べすぎる……。
グアテマラ風朝食メニューは、グアテマラ全国どこへ行っても基本は一緒です。その証拠にマクドナルドにもちゃんとこの朝食メニューがあります。ハンバーガー屋さんらしく、ミートパティもついていますが、タマゴ、フリホーレス、プラタノの三種のおかずは不動のメンバー。
昼食がメインで朝食と夕食はほぼ同じメニューだったりするグアテマラ、来る日も来る日も同じメニューを繰り返している家庭もあるようですが、飽きないのかしら、とは思います。美味しいからいいのかな。
(草野あずき)
さて、「朝は甘いものが食べたい」という甘党の方もいらっしゃると思います。そんな人にオススメの国はフィリピンです。
5 フィリピンのチョコレートのお粥
フィリピンは実はチョコレートの原料であるカカオ豆の生産国。そしてこのカカオのパウダーを固めた「タブレア」という食材が、どの食料品売場にも大概あります。そのタブレアに砂糖とホットミルクを加えてホット・チョコレートを飲む習慣も一般的ですが、炊いた餅米と合わせて煮て「おかゆ」にすることも多いです。このいわば「チョコレートのお粥」は「チャンポラード」と呼ばれ、朝食またはフィリピンの習慣でもあるメリエンダ(間食)として食されます。
(Okada M.A.)
以上、世界5ヵ国の国民的朝ごはんでした。
【構成:海外書き人クラブ 柳沢有紀夫】
(「海外在住ライターを使ってみたい」と思われている方。「海外在住ライターになりたいと思われている方。耳寄りな情報があります。ぜひこのページの下のほうまでご覧ください)
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