「無駄な抵抗をやめて~ 出てきなさ~い」(1960年代)

ライフル銃を持ち、人質を取って立てこもった犯人に向かって、警視庁や県警の機動隊がメガホンで遠くから投降を呼びかける際の決まり文句。意味はそのまんま。
メガホンの

無駄な抵抗をやめて~ 出てきなさ~い

のあとに、まわりの機動隊員が一斉にハンドスピーカー(メガホン)なしで「出てきなさ~い」とシュプレヒコールのように唱和するような記憶があるのだけど、もしかしたら何か他のものと混ざってしまっているかもしれない。

ただ

田舎のおふくろさんが泣いてるぞ~

と続くことが多かったのは確かだと思う。

今では完全に死語となったかは不明。というのは銀行強盗を含む立てこもり事件の「件数」自体が減ったかどうかは変わらないけど、「テレビ中継」みたいなのは確実に減ったからだろう。……そう、少なくとも1970年代くらいまでは立てこもり事件をテレビが「生中継」して、視聴者はワクワクしながら観ていた。なんともすごい時代というか。ある意味で「劇場型犯罪」の走りだね。

立てこもり事件には犯人、機動隊、人質のほかにも必ずといって登場する名脇役がいた。いや、脇役って言っていいのか不明だけど。それは「犯人のおかあさん」。

さっきも紹介した

田舎のおふくろさんが泣いてるぞ~

と言うだけじゃ説得力がないと思ったのが、田舎から連れ出してきちゃっていた。警察がたぶん公費で。

機動隊の現地対策本部のテントだかなんだかが、妙にザワザワザワってしだしたと思ったら、機動隊のそれなりに偉い人がやおらメガホンを持つ。

田中~っ。田舎からおかあさんがわざわざいらしたぞ~

わざわざいらしたって……警察が半強制的に連れてきたんだけどね。

で、母親の登場に動揺した犯人が窓から機動隊に向かって、

うるせえ。母親は関係ねえだろ!

とか

かあちゃんを連れてくんな!

とか叫んでから、空に向かって一発放つというのがお決まりのパータン。念のため書いておくけど、一発放つのは「オ○ラ」じゃなくて「ライフル銃」だ。

現場は一瞬、この発砲(あっ、この単語を使えばいいのか、「一発放つ」じゃなくて)てざわつくんだけど、それでも犯人の母親はメガホンを手にとる。ここで「ピーーッ」とハウリングの不快な音が鳴り響くのもお決まりのパターン。

ヨシヒコ。かあちゃんだよ。悪いこと言わないから出ておいで。今ならまだ間に合うよ。警察の人にはかあちゃんがちゃ~~~んと話したから

…………。いやいやいや、かあちゃんさん。無理だって、すでに。間に合わないって。強盗「未遂」とかにならないから、もう。間違いなく現行犯逮捕だから。「ちゃ~~~んと」とか力込めてもダメだから。かあちゃんさん、政界の黒幕とかじゃないし。テレビ中継されちゃってる犯罪、揉み消せないし……。

ヨシヒコは悪くねえ。ヨシヒコはいい子だ。悪いのはみ~んなかあちゃんだ

というのもパターンの一つ。あとハンドマイクから手を離して、現地対策本部のテントだかに戻る前に

警察のみなさん。ヨシヒコを許してやってください。この通り、この通りです

と頭を下げるのも。……いやいやいや、かあちゃんさん。「ごめんで済んだら警察いらない」ってしつけてきたのはあなたじゃないんですか! あっ、「ごめんで済んだら警察いらない」も死語? まだ使われてるのかな?

まあ、かあちゃんさんの登場で即解決にはつながらないとは思うんだけど、ボディブローのようには効いたんだろうね、機動隊も毎度毎度この手を使っていたってことは。しかしかあちゃんさんまで全国ネットでテレビの前にさらされて、「加害者家族の人権」みたいなものは……考えられなかったんだろうね、このころは。

あと、なんで連れて来られるのが「かあちゃん」だけで、「とうちゃん」じゃないのか。

オレには……こいつらの世話がある

なんて言いながら黙々と牛舎の中で働いていたら、それはそれでしびれるけどなあ。

長編の解説になったけど、そもそもの話にもどると「無駄な抵抗」とかって言い方、どうなのだろうか? 「どうせお前みたいな子は……」って言われるからやる気がなくなるのと同じで、こんな風に頭ごなしに決めつけられると、犯人がカチンと来て逆効果なんじゃないかなあ……と子ども心に心配だった。
今回はなんだか「ボヘミアンラプソディ」の匂いがすると思うのは私だけか?

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